加藤 てっきり,爆薬に火がつくから爆発するのだと思っていました。

吉田 そうではないことが多いんですよ。例えば,ある火薬庫で爆発が起きて,隣の火薬庫が誘爆するというような事故は,多くの場合,最初の爆発による衝撃波が原因です。爆発による衝撃波で隣の火薬庫などが誘爆する現象を「殉爆」と呼ぶのですが,これが起きないように火薬庫間の距離や隔壁を設計しておく必要があります。

 英国がフォークランド紛争で負けた要因の一つは,軍艦の火薬庫が殉爆したことと言われている。これは,安全性の観点で見れば,単純に工学的な構造設計のミスです。殉爆しないように隔壁を設計しておく必要があった。

 殉爆が起きる条件を知るには,火薬の衝撃波特性を調べる必要があります。火薬の種類によって,爆発に至る性質が大きく違うからです。

 花火に使う黒色火薬のようなものは,非常に燃えやすい。火がついたら「どーん」と爆発します。でも,TNTのような軍用火薬はなかなか燃えませんし,燃えてもすぐには爆発しません。ただ,圧縮すればするほど爆発しやすくなる。逆に,硝酸アンモニウムに燃料油を加えた「アンホ」という火薬は,圧縮すると爆発しにくくなります。

気体よりも,液体・固体がすごい

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吉田 ちなみに,日露戦争で日本軍が勝った要因は,ピクリン酸を成分とする下瀬火薬の採用だったと言われています。ピクリン酸は爆発力が強いですから,砲弾が粉々になるので殺傷率が高い。一方,ロシアの砲弾は火薬の爆発力が弱かった。当時の日本は爆薬についての高い技術を持っていたわけです。

 ただ,今は日本で軍事上の爆発研究を手掛けている機関はありません。産総研では,こうした火薬の安全性について,主に産業用途で何が必要かを検討する研究を手掛けていました。「火薬類取締法」の技術基準データの検討や,爆発事故の調査委員会での調査などです。

加藤 なるほど。爆発と聞いて,ガス爆発のようなものを想像していました。

吉田 私の専門はどちらかと言えば,固体や液体の爆発です。気体の爆発よりも爆発力が格段に大きい。

 もちろん,ガス爆発の研究を手掛ける研究者もいますし,現在の会社の事業ではそちらの案件も多い。ただ,ガス爆発は人間の目で見ると爆発しているように見えますが,実は単にガスが燃えているだけという可能性もあります。「燃える」と「爆発」は,だいぶ異なる現象なんですよ。

加藤 安全上重要な研究を手掛けていた吉田さんが産総研を辞めて起業したわけですが,何がキッカケだったのでしょうか。

吉田 実は,最初に辞めようと思ったのは産総研に入った1981年のことです。その時点で「ここは絶対に辞めてやる」と固く心に誓いました。いつか辞めてやると。

加藤 えっ? 本当ですか。それは書いても大丈夫ですか。

吉田 ええ。本当のことですから。

加藤 でも,なぜですか。