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安住を捨て,我が道を行く

爆発に魅せられたマイコン少年,吉田正典氏(上)

加藤 幹之=Intellectual Ventures 上級副社長兼日本総代表
2011/03/28 07:00
1/6ページ

 JRの秋葉原駅から上野方面に向かい末広町を過ぎた辺りの路地に入ると,オフィス街の一角に掲げられた「爆発研究所」という看板が目に飛び込んでくる。随分と物騒な,しかし何をしているのか何となく見てみたい。そういう衝動に駆られる社名である。

 路地裏の目立たない入り口から歩を進め,3階にある事務所のドアを開けると,膨らんだ期待は肩透かしに遭う。目に入ってくるのは,普通の事務机,そして椅子が並んだ一般的なオフィスの風景である。“爆発”という言葉から想像できる怪しそうな荷物もなければ,火薬の匂いもしない。

 「こんにちは」。にこやかな挨拶とともに奥から出て来たのは,いかにも温厚そうな紳士。今回,ご紹介する吉田正典氏,爆発研究所の社長,その人である。

50歳代半ばでの独立

特徴ある社名が目に飛び込んでくる
[画像のクリックで拡大表示]

 吉田氏は,1981年に当時の通商産業省 工業技術院 化学技術研究所に入所した。その後,研究所の名称は物質工学工業技術研究所,産業技術総合研究所に変わったが,同氏は一貫して「爆発」にかかわる研究に取り組んできた。まさに日本の爆発研究の第一人者である。国内で爆発にかかわる大きな事故があれば,ほぼ必ずといっていいほど国の調査委員として名を連ね,その英知を事故原因の究明にフル動員してきた人物だ。

 長年の間,極めて専門性の高い分野で研究を続けてきた吉田氏は,50歳代半ばになって突然,順風満帆だったはずの研究者生活と安定を脱ぎ捨てた。産総研の爆発安全研究センター 副研究センター長という職を2006年7月に辞し,その翌月に株式会社爆発研究所を設立したのである。

 この数年の流行である,いわゆる大学発・国家研究所発のベンチャー企業ではない。国のひも付きではなく,まったく個人としての転身である。普通ならば,定年退職後の生活設計を考え始めてもいい年齢だ。還暦を数年後に控えた独立には頭が下がる。

 実は,吉田氏は私が通っていた神戸にある高校の2年上の先輩である。個人的なことで恐縮だが,私も昨年,30年以上勤務した富士通を早期退職し,新興の研究投資ファンドで技術者の研究開発を支援する新たな職に就いた。起業ではないにしても,自分では一からやり直しだと思っている。我が転身もあって,「退職金を資本金にして起業しました」と笑顔で答える吉田先輩の挑戦に大変興味を抱いた。

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