半導体やエレクトロニクスの分野で,技術で勝ちながら事業で韓国企業や台湾企業に負ける場合が少なくないのはなぜでしょうか。その理由は明確ではありません。機器の組み立てなどの労働集約型の産業とは異なり,製造装置への投資が製造コストの大半を占める半導体産業では製造コストに占める人件費の割合は低く,日本の工場の高い人件費がその理由とは思えません。また,研究開発コストについても,日本の技術者の人件費は,欧米・韓国・台湾と比べてさして高い水準にはありません。

  • 法人税率が高いから
  • 日本市場に特化した過剰品質・特殊機能の製品を開発し(いわゆるガラパゴス化)世界市場でコスト競争力を失ったから
  • 経営者が思い切った巨額の投資をしないから
  • 大学からベンチャー企業が生まれないから
  • 過去の成功体験に縛られているから
  • 年功序列の人事制度により抜擢人事が行いにくいから

など,様々な理由が言われています。

 このようなマクロな社会問題・経済問題はよく指摘されますが,現在の日本社会・日本企業の枠組みでも諦めずに,私たちの潜在力をもっと生かし,世界のエレクトロニクス市場の中で日本の強みを発揮できるように考えていきたい。私は日本のエレクトロニクスの復活のためには,技術開発の最前線にいる技術者が市場動向やビジネスモデル,サプライチェーンなどを常に考えながら技術開発を進めることが重要であると考えています。経営幹部によるMOT(Management of Technology,技術経営)ではなく,個々の技術者が経営者の視点を持ちながら研究開発を行う,いわば「ボトムアップのMOT」です。

 日本の企業では,技術者は技術の専門職として,専門分野の技術を深めることが求められています。その一方,技術を生かしてビジネスに発展させるためのMOTの教育はさほど重視されていません。技術者に対してMOTの教育を社内で行う場合にも,多くが管理職への教育として行われていますが,本当は管理職のみならず全ての技術者に必要なスキルだと考えています。MOTを多くの技術者に知ってもらいたい,という思いから私はこのコラムを担当させて頂くことになりました。