光吉氏と私の出会いは,仕事の関係でも,友人の紹介でもない。都内にある自宅の数軒先に住むご近所だったことがキッカケだ。
「あれは,きっと総合格闘技のファイターか,プロレスラーだろう。ひょっとすると,“その筋”のお兄さんかもしれないので,近寄らない方がいい」。これが,我が家の近所で初めて光吉氏の姿を見掛けた時の率直な印象だ。
巨大なオートバイを自在に操って,住宅街を走り抜ける。スキンヘッドに精悍な目。自宅の玄関先にはサンドバッグがぶら下がっていて,それを目がけてトレーニングに励む姿を何度となく目撃した。
オートバイの巨大さは並大抵ではない。まるで鉄のかたまりだ。バイクのことを通(つう)の間では「鉄馬」と呼ぶらしいが,光吉氏の乗るオートバイは馬などというレベルのものではない。まるで肉食恐竜である。「彼に近寄ったら食われる。食われなくとも,前歯の3本くらいはなくなる」。オートバイの印象と本人の風貌に圧倒されたこともあり,ずっとこう思い続けて,かなりの時間が過ぎた。
恐る恐る声を掛けてみると…
ある週末,ついにその時が来た。
天気の良い昼下がり。ふらっと自宅を出ると,光吉氏が愛車の整備をしていた。巨大な肉食恐竜は,光吉氏の手に掛ってきれいに磨かれ,おとなしく寝そべっている。思わず(不覚にも)私は恐竜の主人に声を掛けてしまった。
「すごいバイクですね。何ccあるんですか?」
「8200ccです。エンジンはシボレー製で重さは1トン近くあります」
思ったより高音で,響きのいい声が返ってきた。
「自動車よりもずっと大きいじゃないですか」
「そう,エンジンにまたがっているみたいなもんです」
「あまり見かけたことがないのですが,普通に売っているものなんですか」
「Boss Hossという米国メーカーのものです。でも,日本で日常的に乗っている人は,僕も含めて3人くらいみたいですよ」
「燃費が悪そうですね」
「そうなんですよ。1リットル当たり3~4kmかな? ガソリンを撒いて走っているようなもんです」