これまでのコラムでは、なぜ今の時代に「プラットフォーム化」が必要なのか、その目的の重要性を述べてきました。もう少し具体的に見ていくため、あなたが新しい“携帯型AM/FMラジオの開発”に携わる設計責任者だとして「プラットフォーム化」にまつわる落とし穴を見ていくことにしましょう。

 工場の在庫削減と部品コスト削減のために「部品共通化」が部長からの命題だ。そんな命題にあなたはきっと悩む。過去のモデルと共通の部品をなるべく使うべきなのか、隣の課で設計しているAM専用の携帯ラジオと部品を共通化すべきなのか、他の事業部で開発している据え置きのミニコンポと部品を共通化するべきなのか。さらには、次世代以降の携帯ラジオに使い続けられるような部品を開発すべきなのか、オプションは無限にある。資材部門からは、部品の数を減らしてくれれば価格交渉が楽になり、仕入れコストが下がる金額もシミュレーションできているという声が聞こえてくる。生産部門からは、在庫スペースが大きく減るだけでなく、取り扱いも格段と楽になるため、首を長くして待っているというプレッシャーもある。

 抵抗やネジなど数部品であれば、前モデルの部品を再利用して共通化できるめどはつく。しかし、求められているスケールはもっと大きい。かといって、製品の大半をそのまま踏襲したのでは、目新しさを訴求することもできないし、性能向上もできない。それに、そんなお茶を濁したような開発はつまらない、とさえあなたは思うだろう。「部品共通化」を課題に持つ設計者にはこんな複雑な思いがひしめく。

 ここで、悩んでいるあなたに対して、ボディに関しては前モデルと同一にするという、具体的な指示が出たとしよう。ボディを踏襲することで金型代が抑えられ、一方で受信感度や音質には改良を加えた。いよいよ販売準備のために、主な販売代理店の意見を聞きに回ったところ、そんな代わり映えのしない製品は売れないと言われ、慌てふためくだろう。今から金型を変更し、試験をし直したら販売時期が4カ月遅れてしまう。年末商戦は迫っており、販売網やマーケティング部門に「部品の共通化が開発方針なので…」と、言い訳を重ねることで、なんとか設計変更をせずに発売することに合意してもらうことができたとしても、売り上げ予測は下方修正。あわてて、ボディのマイナーチェンジを行う決定が下される。

 この例はよくある落とし穴のタイプを示しています。顧客ニーズを満足する上で部品の共通化が制約となり、中途半端な製品となってしまいました。帯に短し襷に長しと言えばよいでしょうか。帯と襷の共通項、つまり公約数を見出すのではなく、まるで帯を短くし、襷を長くすることで問題を解決しようとしてしまったのです。その結果、この例にあるように売れないリスクや量産開始直前の作り直しなどさまざまな影響が生じます。

 次の世代で挽回を試みたとしましょう。

 前回の失敗を踏まえて、今回は隣の部門と協力して、AM専用の携帯ラジオとあなたが開発するAM/FM携帯ラジオには同じチューナーICを採用することにした。調達部門は大喜びだ。ICの大量購入は価格交渉力を生むし、購入品目が減る。一方で、AM専用のラジオを担当しているA氏は大変そうだ。なにせ、AMラジオにとっては高い部品を使うことになるからだ。コストだけではない。彼はこれまでAM/FMチューナーなんて扱ったことはなかったのだ。このチューナーのFM機能は丸ごと不要となるだけでなく、音質を高めるための設定事項が多く、作り込みが大変なため、無駄な仕事が増えている気がして気の毒だ。かといって、AM専用ICを共用したのでは、FM用のICを別途搭載する必要があるし、かなりのコストアップになってしまう。やむを得ない選択だと諦めるしかないのだろうか。

 このようにコストが犠牲になってしまうのも典型的な落とし穴です。AM専用の製品がオーバースペックで肥満体、いまでいうところのメタボな製品仕様となってしまいました。二つの製品の公約数を探すのではなく、チューナーICの倍数になるような製品仕様を後から決めてしまったのです。売れるものづくりという観点では、大は小を兼ねない、ということに注意しないといけません。

 ここまで見てきたような落とし穴にはまらないで、プラットフォームを作るということは、最大公約数を見つけることに他なりません。昔習った算数 と同じように、最大公約数を見つけるには、「因数分解」が鍵となります。次回は製品の因数分解とはどうやってやれば良いのかを考えていきたいと思 います。

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