ザインが得意とする「ASSP」と呼ばれる特定用途向けの標準品のビジネスモデルは、各クライアントがそれぞれ別々に研究開発して製造する場合よりも、各社のそれぞれの製品仕様を満たしながらも低価格化で供給すること実現するものだ。例えば、ザインの名を高めた「LVDS」というIC製品は、デジタル画像データを高速伝送するICであり、液晶テレビやパソコン向け用途で世界の約80%のシェアをとったことで有名な主力製品である。液晶パネルなどのディスプレー向けに画像を繊細かつ鮮明に表示させ、信号伝送の消費電力を小さくする機能を持つ。

 この製品を、各メーカーが自社向けにそれぞれ研究開発すると、その分の研究開発費がそれぞれかかる。そして自社で製造すれば、その分の製造費がそれぞれかかる。これに対して、ザインは各社から製品開発を同時に請け負い、各社がほしい製品仕様を満たす製品を供給すれば、生産量が大幅に増える分だけ、製品1個当たりの研究開発費と製造費が安くできる(図1)。現在は、この水平分業の事業態勢がさらに複雑に進化していると説明する。

図1○ザインのASSPの事業モデル(同社のWebサイトから引用)。現在はもっと複雑化している
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 同社が生産を外部のファウンダリーに委託する場合のポイントは「製造委託先認定プログラム」「工程認定プログラム」「工程管理プログラム」「品質評価システム」などを実施し、「品質保証を高度に実施していることだ」と説明する。品質保証マネジメントシステム(QMS)をしっかり実現できていることが、同社の強みである。

 最近は液晶パネルの研究開発競争が激しくなり、日本と韓国、台湾の各メーカー同士の競争が激しいために、「製品形態がASSPというよりはASIC(Application Specific Integrated Circuit)に近くなり始めている」ともいう。

 ザインが得意とするICの種類は、アナログ回路とデジタル回路を1個のチップに混載する“ミックスドシグナル”と呼ぶものだ。デジタル回路は雑音(ノイズ)を発生させるものが多く、アナログ回路は雑音に弱いため、混載するには高度なノウハウが必要になる。これまでの経験から蓄積したノウハウを駆使しているようだ。この結果、IPと呼ぶ電子回路の要素設計を設計資産として整備し、そのライセンス事業も手がけている。自社のIPに加えて、社外の優れたIPも駆使する態勢を整えている。

最初に設立した研究所は場所の点では失敗だった

 ザインはベンチャー企業としてビジネスモデル(事業モデル)を適時、変革しながら、事業体制を確立し成功した。2001年8月にはJASDAQ市場に上場し、企業としての基盤を築いた。1991年5月にザインの前身となるザイン・マイクロシステム研究所(茨城県つくば市)を設立し、半導体の設計業務の委託事業を始めた。大手企業の優秀な人材がスピンアウトして、ベンチャー企業を始めるのはまだ珍しい時代だった。92年当時は、日米半導体摩擦が大きな山場を迎え、日本の大手電機メーカーは日の出の勢いだったころである。