はやぶさのロマンに思う

 小惑星探査機「はやぶさ」は,まるでドラマのように魅せた。日本の誇るスパーブレーンたちによる幾多の難問解決を乗り越えての帰還劇は、アルキメデスの図形問題を解くのに共通している。幸いにも、はやぶさのプロジェクトリーダーである,宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学研究本部宇宙航行システム研究系教授の川口淳一郎氏の講演を聞く機会があった。

 宇宙の彼方へ飛ばしたロケットを地球上にある小さな国の上でコントロールし、極々小さな石の固まりに着陸させてカケラを採取して地球に持ち帰り宇宙創世の謎を解き明かすという前代未聞のこの宇宙ドラマ。(1)残された機材だけでアクシデントを回避する機転力、(2)絶体絶命にあるほんのわずかな天体起動からのチャンスと仮説立案、(3)あらゆる事態を想定した水平思考と対応準備――それらはみな数学的思考力のなせる技と言っても過言ではないと思う。

 特に図形問題を解くのに似ている。宇宙の中にいる“飛行船”はやぶさを図形問題にしてみると幾何学問題を解くのが大好きな人にはワクワクしてくるではないか!

(1)ロケットエンジンの4基すべての故障と太陽エネルギーの応用
(2)操舵不能による通信断絶と惑星軌道上の通信復活を推理
(3)珈琲を絶やさなかったあきらめない気持ち(小生の場合は数学問題を解く時にはなんといっても珈琲)

 小生には、数学的思考はロケットを宇宙に飛ばして戻ってくるためにあり、脳トレはパイロットの養成用ゲーム教材でしか過ぎないように思う。講演会場に投影された長い冒険の末に大気圏突入で燃え尽きるはやぶさを見て涙が止まらなった。隣に着席していた女性もハンカチで目を覆っていた。“はやぶさは私の人生そのものだ”と内心思った人は私だけではあるまい。

 三角定規とコンパスによる数学的思考力が宇宙の謎を解き明かす唯一の道具かもしれない。その数学ロマンをもう一度我々日本人に取り戻すことは叶わぬ夢なのだろうか。