試験で良くても実践では役立たず

 他にも数学の危機と可能性を示す二つの話題がある。順に紹介しよう。

 まず、サイバー大学IT総合学部教授の野崎昭弘氏にお話を伺った。野崎氏は、最近の学生の数学に接し方に対して危機を覚えているようだ。

「三角形のそれぞれ内角の二等分線は互いに一点で交差する、というのはわかっていたんですが、三角形のそれぞれの内角の三等分線は正三角形を形成する、というたいへん興味深い発見もわりあい最近になってわかったんです(上の図参照)。そんな数学を教えてやりたいのですが、現実的には数学への関心はどんどん遠のくばかりなんです。

野崎先生の授業の様子

 国立大学一期校の数学科のある教授は大学院進学の面接で、学生に数学の問題を丸1日かけて解いたことがあるか? と聞いてみたら、1人もいなかった、と嘆いていました。私のいた大学でも、数学の問題をどれくらいの時間をかけて解くか、と聞いてみたら平均で5分、長くて30分という解答結果には唖然としました。受験数学は解けない問題は飛ばす、暗記解答型で本来思考型学習科目であるはずがまったく意味をなしていなくなりつつあるんです。

 他の話題ですが,問題を自分で選べるようにしたとき,考えさせる数学の問題を解こうとした受験生はゼロだったんです。思わず教授同士でそれを選択した生徒は合格させようか、とまで話し合ったそうです。その影響はアメリカの大学や国際機関にも出ていて、日本の学生は試験をするとできるが、研究段階になってから数学的思考ができないから採用するな、という話まで出ているんです」。

はやぶさのロマンに思う