ここで恵藤さんの三角定規とコンパスが登場する。「三平方の定理を使うと・・・ほら模型を見てわかる通り、求めるπの値は3よりも大きく3.464よりも小さいのがわかるでしょ」と、まずは見てわかることから説明する。では数学的に解くとどうなるか? というと、これからがが数学の面白さにつながっていくのだ。自然に数学の世界に導かれてゆく。その手製の道具で数学の謎を解いてゆく魅力は、何物にも代え難い知の喜びを実感するものだ。

円周率の値を求める。円に内接、外接する正六角形の外周の長さを求める。次に正十二角形、次に正二十四角形...と増やすことにより真の円周の値に近づいていく。

 「ピタゴラスはなぜ三平方の定理を発見したと思いますか? 彼の時代には農耕地や収穫地などの領地面積を均等に割り出す計算方法が必要だった。つまり数学は机の上からではなく生活から編み出された学問なんです。

 アルキメデスは有名な王様に王冠が純金でできているか、まぜものがしてないかを王冠を壊さずに調べてくれ、と頼まれた。その問題を解くために、比重という概念を発見したが、ヒントになったのは風呂から溢れる水の量であった。

 だから数学を学ぶには、生活にあるよく見慣れた事例からなぜそれがそうなっているかを模型で見せてあげるのが一番理解しやすいんです」。

 数学の話は予定していた1時間を遥かに超え、会議室を移動して3時間に及んだがそれでもまだ話は尽きなかった。「自分で考えることの素晴らしさを体験できる教育が必要。その教育をしなければ日本の将来はない」と、恵藤さんは満身の思いで力説されていた。

試験で良くても実践では役立たず