--各家庭に太陽電池と共に,蓄電池やHEMS(Home Energy Management System:ホーム・エネルギー・マネジメント・システム)を導入して,電気を「地産地消」しようという試みもありますが,「日本版スマートグリッド」との関係はどのように考えていますか。

 蓄電池の価格が下がって,それを導入する余裕のある家庭は購入すれば良いと思いますし,将来的にもある程度は導入されると思います。HEMSも導入すれば,家の中のエネルギー発電と消費をコントロールして,省エネにつなげたり,停電したときなどのために備えるという意味はあるでしょう。しかし,これは1軒単位のエネルギーの効率化にはなっても,太陽光発電などの再生可能エネルギー電源の大量導入の問題を社会コストミニマム解決するという「日本版スマートグリッド」の一要素になるとは考えられません。

 といいますのは,社会コスト全体を考えると,エネルギーマネジメントの範囲が狭いほど,効率が下がって,コストアップになっていきます。そもそも電気は,熱やガスと違って,一瞬のうちに移動できるというのが特徴で,この特徴をうまく利用するほど効率がよくなります。あるところで電気が余っていて,別のところで足らなかったら融通し合うことによって効率が上がります。つまり,融通しあう範囲は広ければ広いほど全体最適になります。

--「全体最適」という視点では,どこまで範囲を広げるのが理想的なのでしょうか。

 系統側から見ると,現状では,日本全体を考慮しつつ各電力会社単位で最適化されていますので,究極的には,各電力会社を欧米のように現状以上に強固につないで日本単位で全体最適を図るということが考えられます。しかし,どこまで範囲を広げればいいかどうかは,供給信頼度の問題とコストの問題を勘案して決まります。供給信頼度の問題では,範囲を広げるほど,いったん停電したときに影響する範囲は広がってしまいます。どの程度の供給信頼度を求めるのかという社会的合意を基に今後検討する必要があります。コストの問題については,現在は,非常時に備えて容量の小さな連系線でつながっていますが,本格的に融通し合うとなると送電網を増設する必要があります。そのコストと,全体最適によって得られるメリットを天秤にかけて最適範囲を決めるということになります。

 もう一つ,考えなければならないファクターとして,時間の問題があります。送電網の増設にしても,20年,30年という時間がかかります。その時間を見込んで,長期的に全体最適の戦略を持てるか,という点を今後もっと議論する必要があるでしょう。

 日本版スマートグリッドを考える上でも,この供給信頼度とコスト,および長期的な観点を勘案しながら,どこまで範囲を広げられるかが重要になります。そうでなければ,コスト負担の増大という形で国民に犠牲を強いることになりますし,それを海外に売るにしても高コストなものになってしまって相手国にも受け入れられません。さまざまなプロジェクトが走っていますが,グリッドである電力システムについてはいかに全体最適を図れるか,という視点を常に持って取り組む姿勢が求められていると思います。