--米国では,逆に電力の使用量を見える化すると共に、電力料金をリアルタイムに変えて、消費者自身が電力消費量をコントロールするデマンド・レスポンスが検討されていますが…。

 当プロジェクトではデマンド・レスポンスは検討項目に入っていません。デマンド・レスポンスは、米国で有効でも日本では効果が薄いと考えるからです。米国では発電設備や送電設備が絶対的に不足していますから、将来的な電力需要の増加に備えて、安定供給のためにピーク需要を抑制する手段としてデマンド・レスポンスを中心としたスマートグリッドの検討が進められています。例えば、皆が一斉に電気自動車を充電し始めたら、脆弱な送配電網がパンクしてしまうので、なんとか電気を使わないようにしたいのですね。それと、元々米国民は留守にしているときでもエアコンをつけっぱなしにするなど、エネルギー多消費型の生活文化を持っています。電気料金をインセンティブにしてそうした習慣を変える意味はあるでしょう。しかし、日本では元々こまめに電気のスイッチを切る生活スタイルが浸透している上に、毎日のピーク需要時に電力消費量を下げなければならないという強い理由はありません。大規模発電所に何らかの支障があって需給がひっ迫する緊急時などには,電力消費量を下げる必要はわが国にもありますが,米国の平常時の問題とは別の問題です。むしろ、太陽光発電で大量に発電された電気が余る場合になんとかしてもっと使わなくてはならない、という状況です。置かれた環境や条件が違うのです。環境や条件が変れば、スマートグリッドの考え方も変ってくるということです。

--基本的考え方は生活を変えない、ということですが、負担コストは増える方向にあるようですが…。

 元々のきっかけは地球温暖化対策ですから,電気料金は上げざるを得ません。太陽光発電や風力発電は従来の集中電源よりも1kW当たりの設備コストは高くなります。余剰電力買取制度がスタートしましたが、高く買い取った分は電気料金に反映されますし、今後炭素税が導入されても電気料金やガソリン料金、ガス料金などのエネルギー価格はすべて高くなる方向です。さらに、今回問題としている再生可能エネルギーの拡大で必要とされるスマートグリッドを導入するにもコストがかかりますので、これも電気料金に上乗せされます。

 ですから、スマートグリッドの導入では、どうしたら社会コストをミニマムにできるか、ということを考えなければいけません。社会コストをミニマムにすることがひいては各自が負担する電気料金の増加を抑制するからです。現在、スマートグリッドの一つの技術要素として、蓄電池を導入して安定化する手法が検討されていますが、現状では大変なコストアップ要因になりますので、出来る限り蓄電池を少なくして対応できないか、ということを今回の実証実験では検討したいと思っています。もちろん、再生可能エネルギーの導入量をどんどん増やしていくと、いつかは蓄電池を設置しなくてはならなくなりますが、その場合も社会コストがミニマムになる形でどこにどの程度入れていくかを慎重に決めていく必要があります。

--そもそも太陽光発電の1kW当たりの設備コストは高いということであれば,太陽光を2800万kWや5300万kWまで大量導入するという施策自体の妥当性はどう考えますか。

 コストとCO2削減のことだけ考えたら,原子力発電だけでいいということになりますが,産業育成に加えて,エネルギーセキュリティーの問題も重要です。一種類の発電設備に頼っていたら,それが止まったときに大問題になりますから,ある一定量は太陽光発電などの再生可能エネルギー電源が入るというのは検討に値する施策だと思います。ただ,2800万kWや5300万kWまで増やす必要があるのか,1000万kWでいいのかどうかは,議論の余地はあると思います。