崩した鋳型から鋳鉄製の釜が姿を現す。成功したかどうか、緊張する瞬間だ。
崩した鋳型から鋳鉄製の釜が姿を現す。成功したかどうか、緊張する瞬間だ。

 吹きの工程を終えたら、そのまま置いて冷却する。4~5時間、場合によっては1日置いて鋳型を崩すと、中から釜が現れる。これまた緊張する瞬間だ。工房の片隅には、鉄の流し入れの際にできてしまった失敗作がいくつか置かれている。鋳型に鉄を流し込み思い通りの釜を作ることは、熟練の職人をもってしてもときには仕損じてしまう、困難な作業である。中に平釜と呼ばれる肩部分が平らで、横から見ると横に長い長方形の断面をした釜の失敗作が置かれてあった。釜肌に水たまりのような穴がいくつかあいている。

「湯が流れ込んで冷えるまでの間に全体になじまないと、中に空気が残って穴だらけになるんですわ。あの釜なんかはそういう失敗。肩の直角になっているところにドンと湯が当たって散って、なじむ最中に空気が入ってしまいよったんやね」

 工房の職人の一人、岸野がそう説明する。彼の傍らにあるテーブルの上には、同じ形状をした釜が置かれてもいる。何度かの試行錯誤の上、湯流しに成功したものなのだろう。

「ここまで大変とは思うてへんかった。古い釜でもここまで極端な形状はあまりないんで、どうかと思うてたんやけど」。そう語る大西は、肩の部分(釜の上面)が平らな釜を最近数多く作ってきた。デザイン的に面白いからということで挑戦してみたものの、鉄を鋳込む作業では想像以上に難しかった。試行錯誤を重ね、ときには鋳型を斜めに傾けて湯流しを行ったりもしたようだ。

型開けの後の鋳型は、細かくされて鋳型土として、鋳型の材料などに再利用される。
型開けの後の鋳型は、細かくされて鋳型土として、鋳型の材料などに再利用される。

 だが、もともと鋳物には失敗がつきものでもある。先代の頃は、湯を流してうまく行く成功率は約5割だったそうだ。鋳型は型開けの際に壊してしまうため、失敗作、成功作に関わらず1回きりしか使えないから、この成功率は作り手にとって極めて厳しいものである。もちろん、成功率を上げる方法はある。釜を量産に向く、成功しやすい形にすればいいのだ。逆に言えば、低い成功率こそが、創作家としての、大西家歴代の矜持といえるのかもしれない。

「古代から、鉄を流すこと自体が難しいという意識はあったでしょう。けどそこは、神様の存在を信じて、やってきたわけです。でも現代では、科学や技術が発達したおかげで、複雑な形状をしたエンジンの鋳型もうまく流せるようになっている。それなのに、なぜ釜の鋳物は簡単にはいかないのか、ということになってしまう。最先端の鋳造技術を使っても、薄作りの複雑な形状の釜などは、作るのが難しい。けど、それに甘えとるわけにもいかん。世の中全体が技術的にシビアになっているのだから、うちも応えていかなあかんと思うんでね」