ベンチャー企業の創業成功者が次のエンジェルに

「日経エレクトロニクス」2008年12月15日号の表紙

 野心あふれる起業家が独自の技術シーズを基に独創的なビジネスモデルを考案し、ベンチャー企業を設立しようとしても、事業計画を実際に構築する当座の資金がなければ、会社はできない。予想以上に、ランニングコストがかかるからだ。

 米国では、VCが起業家に直接投資する前に、エンジェルと呼ばれる個人投資家がまず、ある程度の資金を投資するケースが多い。この初期の投資資金を活用し、起業家は新規事業の構築を進め、事業性を見通せる段階まで進める。これを基に、VCなどに改良したビジネスモデルを提示する。エンジェルはどのVCに投資を仰ぐかを助言する。VCも新規事業がある程度進められ、採算見通しが“見える化”してから投資判断できるため、いい案件には必要な巨額を投資できることになる。

 こうしてベンチャー企業創業に成功し、ある程度まとまった資産を築いた起業家は、次は自分がエンジェルになる。米国ではベンチャー企業の成長に応じて、経営陣を入れ替えて行くのが普通だ。このため、創業者以外でも資産を築ければ、エンジェルになれる。この結果、エンジェルがある程度の人数で出現する。先輩の世代が次世代の経営陣を経験や人脈を基に育成していくのである。

 八幡氏は「創業期のベンチャー企業への投資は楽しい」という。その時点での最新の技術動向を学ぶモチベーションができ、自分が得たノウハウや人脈などの“知的資産”を次世代に伝承できる。特に、「アイデアあふれる若い技術者や経営者などの起業家との付き合いは刺激的で学ぶことが多い」という。

エンジェルとして規範ある姿勢で起業家を支援

 八幡氏はエンジェルとして、これまでに30社のベンチャー企業に投資した。残念ながら投資先企業からの成功報酬としてのリターンはまだ1社もない。この事実が、日本の厳しいベンチャー企業の状況を端的に物語る。2008年のリーマンショック以前には1社がIPO(Initial Public Offering、新株上場)が見込めそうな機会があったが、遠のいてしまったようだ。八幡氏は日本の半導体産業の将来を気にかけている。世界市場の中で、日本の半導体系ベンチャー企業が優れた新規事業を興し、日本のものづくり産業の隆盛に貢献することをエンジェルとして支援する構えだ。

 エンジェルは起業家にとってリスクマネーを提供してくれる大事な人物だ。だからこそ、「エンジェルは規律ある姿勢で起業家と付き合うことが重要になる」という。このため、IAIジャパンのWebサイトの目立つところに、エンジェルとしての基本的な規範ルールを示している。節度ある姿勢で、真摯(しんし)に起業家の創業を支援することをうたっている。

 イノベーターの先輩が次世代のイノベーターを育成することは簡単なようで難しい課題だ。先輩が後輩をボランティア的に指導する“メンター”には、助言するスキルがいると指摘されている。指導される相手の立場になって指導するやり方などのスキルを学ぶことが不可欠だからだ。イコールパートナーとしてつきあえるかどうかがカギになる。

 IAIジャパンのミッションの一つは日本でのエンジェル育成である。規律ある姿勢で、後輩となる起業家をどのように育成していくかを学ぶ場を提供する。地道な活動だが、日本にエンジェルを根付かせる重要な草の根運動である。

(注1)NPO法人IAIジャパンは、2000年の設立当初は米国のエンジェル組織のIAI(International Angel Investors)の日本支部として設立され、その後、日本のNPO法人としての組織に変更されている。

(注2)日経BPが発行する「日経エレクトロニクス」誌は2008年12月15日号の特集「味方は金持ちエンジニア」で日本のエンジェルの状況を詳細にリポートしている。