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玉成ビジネス

佐々木次郎
2010/07/23 13:31
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 部長が渋い顔して、ブツブツ言ってます。「次郎さんよ、中国の企業にお世話になっている例の部品、手直しが多くて、その打ち合わせで行ったり来たり。ははは、コストが安くなったと思ったら、そのメリットも相殺勘定になりそうだぜェ」。この話、どこぞで聞いたことがありますヨ。最初に見積もりをするてェと、ビックリするような低コスト。シメシメとばかりに全面委託。そして生産が始まると、「こんなハズでは…」と思うことが出るわ出るわで、削減したコストが消えてしまう、そんな話ですワナ。

 「で、どんな問題が出るのサ、不良品が多いのかい?」。「いや、不良というより、精度や公差のバラつきなんだ。例えば、金型がいい例で、玉成がほとんどできていないんだヨ」。懐かしいですナァ、玉成(ぎょくせい)。聞き慣れない言葉ですが、この玉成、ホントに大事なんですゾ。

 あらためて、解説しましょう。玉成なんてェ言葉、普段はほとんど使いませんが、金型業界では当たり前。本来の意味は、「立派な人物に育てること」あるいは「仕事や研究などを十分高く深い内容にすること」なんですヨ。で、金型業界での意味は、金型の最終的な摺り合わせ、つまり、設計通りに加工した金型を試し打ちしながら、ワークが設計通りの製品になるよう、細部の出っ張りや引っ込みを微調整するための作業を言うのですヨ。最新の金型加工機は、入力したデータ通りに自動的に加工するのはご承知の通り。しかし、材料の特性や、ワークの図面には表せない形状的な特殊な部分など、データだけでは完ぺきな製品はできませんヤネ。なので、この玉成という作業が、金型の最終工程で必ずというくらい必要になるのですワナ。

 で、最初の話、この玉成が向こうではできないので、こちらから行く、それが頻繁になるてェと、コストダウンのハズが、「そうも言ってられねえ!」と、部長が言うようになるのですヨ。まさに職人技、ちっとやそっとで、すぐにマネはできない技術だからこそ、こちらから行くしかない羽目になる。それが、この玉成技術なんですナ。

 「しかし、このままいつまでたっても行ったり来たりじゃ、シャレにならねえヤ。お客様が、いいものをより安くと言ってる以上、コストダウンは避けて通れないだろう。なのに、結局、玉成ができずに、安かろう悪かろうになっちまう。一体、どうしたらいいんだろうナァ」。この問題、根は深いですゾ。第一、技術移転をしようといっても、相当な時間がかかりますワナ。いくら、ハングリー精神があっても、熟練の技をすぐにマスターすることはできませんヤネ。しかも、言葉は違うし、微妙なところが伝わりません。コストダウンの落とし穴が玉成にあるなんて、誰が想像しましたかねェ。

 しばらくたって、同じような話がありました。「ちょっとのことじゃないか、ええっ、少し面を取るくらい。当たり前にやればいいのに手を抜くなんて。それでお客様がケガをする、当たり前のことが何で分からないのかナァ」。どうやら、今度は面取りです。図面には指示があるのに、そう重要なことだとは思わなかったのでしょうか、お客様の手に触れる部品に角が残っていて、それがクレームのもとになったようですヨ。これも玉成技術と言えるでしょうナ。「最後の最後になって、手直しになっちまう。まるでスゴロクだよ。いいところまで行って、また振り出しに戻る。詰めが甘いんだナァ」と部長の嘆き節。確かに、日本人ならちゃんとやる作業、それができないんですナ。

 よく考えてみるとこの玉成技術、アタシたちには当たり前のコトなんですが、どうも、今も他の国では追いつけない技術なんですナ。振り返ってみると、資源もないこの国の製品が世界中に輸出されたのも、この、玉成技術があったからこそ、と言えるのではないでしょうか。「情けねえナァ。今も、断然優位な技術があるのに、コストで負けて海外にシフト。なのに、そのハズが結局、玉成技術がないばかりに、こっちのコストに降りかかる…。ナァ次郎さんよ」。こんな時にはいつもの赤提灯。暑気払いも兼ねて、お局とアスパラも一緒です。

 アスパラが、「玉成なんて初めて聞きました。タマが立派になることなんですね」。「いやらしいわよォ、その言い方。玉のように立派にみがきあげること、立派な人物にするのがホントの意味ヨ。タマじゃないの!」。「いや、その、僕だってタマだけのことを言ったのじゃなくて、タマタマその…」。「あっ、また言った! アスパラいやらしいんだから」。

 聞いてる部長も、「だからぁ、玉はみがかないと玉(ぎょく)にならないだろう? 原石をみがくことで宝石のような玉になるんだヨ。みがいて出世する、つまり立派に大きくなることサ」。「あっ、部長もイヤラシイ! 大きくなるなんて、イヤラシイ!」。オイオイ、お局、何か勘違いしてないかァ? 誰もそんなこと言っていないし…。それにしても、この玉成技術、見過ごしていた素晴らしい技術ですヨ。

 飲むほどに酔うほどに…。お局が、名誉挽回です。「そうだ、玉成ビジネスをすればいいのよ!」。「だってそうでしょ、今も玉成技術はマネできないんだから、堂々とそれでビジネスすればいいのよ。ちゃんとお金を取って、玉成してあげる。そうすれば、向こうも喜ぶし、こっちのベテランも働ける。要は、ビジネスとして割り切ればいいのよォ」。お局の舌がいつにまして滑らかです。「元々、日本のものづくりは玉成技術で優位になったんだから、その技術をもう一度見直し、それを輸出すればいいのよネ。同じ輸出でも、モノではなくて、技術の輸出。そうして、かつての技術大国として、もう一度蘇るのよォ!」。

 う~ん確かに、玉成技術はまだまだ競争力のある技術ですワナ。それを有料で、ちゃんとしてあげれば、それはそれでビジネスになる話かもしれませんゾ。せっかくのコストダウンのハズが、向こうに玉成技術がないばっかりに、行ったり来たり。そんなコストが増大して、結局は元の木阿弥になっちまう。ならば、有料で玉成してあげれば、向こうも納期の短縮になるし、こちらのコスト増も抑えられるし、一石二鳥じゃありませんかねェ。

 思い起こせば、材料を輸入して加工し、さまざまな製品を生産して付加価値を生んだ、かつての産業構造。それは、資源のないこの国ならではの、開発魂の結果だったのですヨ。だから、最終工程の玉成技術にも、文字通り、腕に磨きをかけてきたんじゃありませんか。そのとびっきりの技術を、いつの間にかモノのコストに組み入れてしまった、そういうことじゃありませんかねェ。それならば、これからはモノと技術を切り離して考えればいいことですヨ。「老兵を消すな」でも書いた、金曜日の夜に、ベテラン技術者が人目をはばかるように成田から飛び立つ、なんてェことがないように、玉成技術を堂々と輸出する、そうしましょうヤ。

 さてさて、ギョクセイの話は盛り上がりっぱなし、最後にお局が言ってくれました。「アスパラぁ! タマよ玉! みがいて、男をみがくのよォ! 大きくなって、天までのぼれえ~!」って、わけが分かりません…。

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