——その企業同士が集まるコンソーシアムは,日本企業だけで形成できるものですか。

 日本企業だけでは,世界で勝てるチームはできないと思います。特に,低コスト化の技術や前述したような事業運営に関わるノウハウを取得するために,積極的に海外企業と組むべきです。とにかく,世界で勝てる“ドリームチーム”をつくって,その中で日本企業が中心的な役割を果たすようにもっていく方がいいと思います。

  最近の例ですと,この5月11日に,三菱商事、産業革新機構、日揮に加えて前述したフィリピンのマニラ・ウォーター社が共同で,英国の水道事業会社ユナイテッドユーティリティーズ(UU)から、同社が保有するオーストラリアの水道事業会社ユナイテッドユーティリティーズオーストラリア(UUA)および関連会社の株式を100%買収することで合意した,と発表されました。日本企業が中心になって海外企業を買収することによって,運営ノウハウなどを吸収し,経験を蓄積できることになります。その実績をもって次の入札につなげていく,という良いやり方だと思います。

  その際に,重要なのは,海外企業を買収することで,地元とのよい関係を構築することです。いかに,ウィンウィンの関係を築けるかが鍵を握ります。このことを考える際に私の頭に浮かぶのは,「ノブレスオブリージュ」という言葉です。いかに,相手のことを真剣に考えられるかが,今後世界で勝つための重要なポイントになると思います。

——先ほどの話では,日本の水関連企業は,海外で実績を積んだ後に,日本国内でもその実績を示して,より効率的な方向に変えていかなければいけないということですね。日本の水事業についても長期的には民営化の方向に進むべきですか。

 先ほど言ったように,日本の水事業は歴史的にも雇用の面でも簡単に変えられる問題ではありませんが,市町村単位で狭い範囲で事業を運営しているために,コスト面で効率が悪くなっており,深刻な財政問題を抱えています。

  そこで一部では,民間企業に委託する動きも出ています。例えば,水メジャーのヴェオリア社は、日本企業4社と企業連合を組んで、2010年度から3年契約で印旛沼流域下水道の処理施設運営を千葉県から受託しました。この入札には日本企業も名乗りを挙げたのですが,日本企業サイドにとってショックだったのは,ヴェオリアが採用されたのは,価格というよりも,管理業務などのサービス面等が優れていたことが大きかったことでした。それまでは水メジャーというと低価格だけを前面に出してくるという印象が強かったのですが,やはり,世界で揉まれてきた企業には,価格だけでなく,顧客対応面で一日の長があるようです。

  日本企業も海外で積んだ実績を示して,日本の水道事業を徐々に民営化の方向にもっていくべきでしょう。もちろん,水事業は,国民のライフラインですから,極めて社会性の高い事業です。完全民営化はありえませんが,民営企業の効率の高さや高いサービス提供力はうまく取り込むべきです。

  そのためには,公共と民間が契約に基づいて公的サービスを協業して実施するPPP(Public Private Partnership:官民連携)を目指すのが基本です。条件を付けて,その範囲の中で民間企業には利益を上げてもらう。もちろん,大きな抵抗は予想されますが,海外の成功例を見せて,細かく分散されて非効率化した地方自治体の水事業を徐々に民営化していきます。そうして,コスト面で効率が高く,より優れたサービスを提供できる姿を示して納得してもらうことが大切だと思います。