——日本は要素技術面で高い競争力を持っているのだから,そこをさらに深めるというのも一つのあり方ではないでしょうか。

  もちろん,日本は海水を淡水化する逆浸透膜やポンプといった個別技術で世界市場で70%近いシェアを持っていますし,それはそれで素晴らしいことです。さらに,日本は省水型の技術に優れています。これは流す水を省けるトイレなどに始まり,ありとあらゆる水関連技術にあてはまることです。実際,横軸にGDP,縦軸に水の需要量を各国ごとにプロットしますと,日本は右下に位置します。日本は,省エネルギー技術で優れていることは知れ渡っていますが,省水型の技術でも高い優位性を持っているのです。しかし,こと水ビジネスに関しては,こうした技術的な優位性が全体の競争力のアップにつながっていないことが問題だと思います。

——要素技術で強いのに,なぜ全体の競争力アップにつながらないのでしょうか。

  前にも言ったように,今後急拡大する新興国の水ビジネスでは,各要素技術を組み合わせてトータル・コーディネートできる企業が包括契約を結びますので,そこに付加価値が集中します。“胴元”にならないと,儲からない仕組みになっています。

  さらに,現在要素技術で強いといっても,この世界は技術革新が落ち着いてきて枯れた技術になってきています。主要な特許は切れてきていますから,新興国がキャッチアップしやすい条件が揃っています。実際,中国企業は逆浸透膜を作り始めました。性能はまだまだで,例えば耐用年数でみると,日本製は5年で,中国制は1~2年といった技術的な差はありますが,次第に縮まってきています。さらに,耐用年数が短ければ,短期に取り替えればよい,という使い方もあります。要素技術の強さだけではなかなか勝てない時代になってきたのです。日本がまだ優位性を持っている技術を生かすためにも,早急に“胴元”となる方向に転換しなければならないと思います。

——要素技術の良さを生かしつつ,“胴元”になるということは可能なのでしょうか。むしろ,要素技術にこだわることが“胴元”になれない原因のようにも見えてしまうのですが・・・。

  確かに,難しい問題です。実際,水メジャーやシンガポールの企業は,要素技術に対するこだわりはなく,全世界からコストパフォーマンスの高い技術を調達しています。日本でも当然その方向も追求すべきで,商社などがその最有力候補だと思います。

  しかし,その一方で,ユニークな技術を持った企業同士が集まって補完しあうコンソーシアムを作って,そこに発注しないと,重要な技術が手に入らない,ということを強みに“胴元”になる手もあるのではないかと思います。そのためには,入札条件に工夫を加えることが考えられます。例えば,ITを使った省水化の技術を上手く入れ込んだ入札条件にして,それを世界各地に展開していくといったことが理想です。

——もともと実績の少ない日本企業は入札すら難しい状況があるということでした。それにも増して,入札条件に工夫を加える,ということができるようになるのでしょうか。

  できるように意識を変えることがまず大切ではないでしょうか。特に問題なのは,日本企業は「入札からが競争である」と思っているところです。水に限らず,インフラ輸出に強い欧米の企業は,発注国が事業のマスタープランを策定する段階から,コンサルタントとして参加して,入札条件にも積極的に関与しています。日本企業も,入札前の段階から競争が始まっているという認識を持って,発注国のマスタープラン作りに初期の段階から入り込む姿勢が必要だと思います。