——欧州の水メジャーやハイフラックス社は,すでに新興国でビジネスを拡大しているのですね。日本企業が今から入る余地はあるのでしょうか。

 新興国といってもさまざまです。中国では,上水事業については,確かに既に欧州の水メジャーやシンガポールなどの企業に押さえられていて,余地は小さくなっています。沿岸の大都市部については水メジャーが,内陸部についてはハイフラックス社などが果敢に進出しています。余地があるのは,下水事業や工場排水の再処理事業です。特に,下水事業は,地方自治体が担当していますが,かなりひどい運営状況で公害問題にさえなっています。そうしたニーズをうまくとらえて,例えば,下水処理して中水として工業用水を供給し,汚泥をバイオマスとして資源化するというようなアイデアをもっていくと十分受け入れられる可能性はあります。実際,中国の下水事業や排水処理事業に日本企業も進出し始めました。

 中東などでも,建築・土木現場やその作業員の宿舎等などから出る排水の処理に困っているというという状況があり,中水として再利用しようというニーズは高いです。さらに,これらの地域では海水淡水化による造水が盛んに行われていますが,これによって海水の塩分濃度が高くなることが大きな問題になりつつあります。そのためにも,排水を出来る限り有効利用しようという機運が高まっています。

 インドなどさらに遅れた新興国では,まだ上水分野でも参入する余地は十分あると思います。

——インドについてですが,インドと日本の両政府が推進するデリーとムンバイ間におけるスマートコミュニティー構想では、このほど日立、東芝、三菱重工業、日揮をそれぞれ中核とするコンソーシアム(企業連合)のプロジェクトをモデル事業として選定しました。そこでは,スマートグリッドなどの電力に加えて水事業も大きな柱の一つになっています。

 確かに,インドのスマートコミュニティー構想はスマートグリッドが中心かと思っていたのですが,実際には水事業が入っていますね。新しい都市開発では,エネルギーも水も道路も各種のインフラをいっぺんに立ち上げる必要があります。それらを効率よく融合できるということが大きな強みになると思います。

——日本企業が水メジャーになるための「条件」を聞きたいのですが,さきほど,欧州水メジャーやシンガポールのハイフラックス社は,まず国内で水事業のノウハウを蓄積して海外に出たという戦略をとっているとのことでした。その意味では,日本もまず国内で水事業の民営化を進めて,そこで日本企業がノウハウを培って,海外に打って出るべきでしょうか。

  それは難しいでしょう。日本では,水事業を各地方自治体が担っていますが,民営企業に任せるという方向は,雇用の問題一つとっても容易なことではありません。加えて,江戸時代からの水利権の問題や縦割り行政の問題など,5年や10年で片がつく問題ではありません。もちろん,中長期的には取り組むべき問題ですが,国内をなんとかしようなどとやっているうちに,新興国市場を水メジャーやシンガポール,韓国企業に押さえられてしまいます。

 日本企業は,国内の前に,まず海外に出ることを考えるべきです。むしろ,海外で実績を積んで,その成果を示して,日本国内を変えていく方が手っ取り早いのではないでしょうか。