経済成長戦略に書かれた宇宙産業

 平成22年6月18日に閣議決定された「新成長戦略」には「宇宙ビジネスの育成」が書かれている。あまりマスコミには紹介されていないが、この新成長戦略は、菅総理が国家戦略担当相のときに作成を進めたものであり、菅総理の思い入れは深い。今後の宇宙政策の大きな指針になると思っている。

 具体的に、新成長戦略においては、「フロンティアの創出」として「宇宙開発利用の推進」を掲げている。その詳細は、以下の3点である。

  • 小型衛星・小型ロケットの開発、衛星データ利用促進プラットフォームの構築(2012年度に運用開始)
  • アジアを中心とした需要の取込み(ODAなどを適切に活用した宇宙システムのパッケージによる海外展開)
  • 衛星・センサーのシリーズ化、リアルタイム地球観測網の構築、最先端宇宙科学・技術による競争力の確保

 私は国家戦略室の調査委員会委員であり、立場上、今後この新成長戦略の実現を進めていくことになる。しかしながら、私はこの項目だけでは宇宙産業の成長、とくにビジネスを見据えた成長は難しいと考えている。

官需?それとも民需?

 では何をすればよいのだろうか。宇宙政策に関する他の提言を参考にしてみよう。「【宇宙戦略(8)】前原大臣への宇宙庁提言を分解する」でも書いたが、前原誠司宇宙担当大臣の私的懇談会「今後の宇宙政策のあり方に関する有識者会議」の提言書が、平成22年4月20日に出された。有識者会議は松井孝典千葉工業大学惑星探査研究センター所長を座長とし、大学教授5人で構成される。その報告書では「日本経済の現状では、官需で宇宙産業を維持できず、民需を取り込む必要がある」との指摘がある。

 はたして“民需を取り込む”などとかんたんに言えるのだろうか、というのが筆者の疑問だ。筆者は常々、世界の市場は官需がけん引しており,その役割が大きいと考えているからだ。

 実際に、米国FAA注1)が毎年発表しているReview注2)によると、2003年1月から2010年3月までの期間、人工衛星の民需と官需のペイロード(最大積載量)・サマリーと打ち上げ数については、世界全体で明らかに官需が民需を凌駕している。民需が約24%に対して、官需は約76%であった。これを見ると、これからは“官需ではなく民需に頼って”などと、そうかんたんにいえる状況ではないのが分かる。

注1) Federal Aviation Administration(連邦航空局)のAssociate Administrator for Commercial Space Transportation(AST)が発表したもの。

注2) 正式にはCommercial Space Transportation(CST)Review。

世界の打ち上げサービス
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出典:JAXA資料より
世界のペイロード・サマリー
世界のペイロード・サマリー
出典:JAXA資料より