技術移転や起業支援を手がける企業社長として支援

 2006年4月の創業時点は大竹氏は副社長として設立に参画した。その時、大竹氏は同大学のTLO(技術移転機関)などを手がけるMPO(川崎市)の代表取締役社長を務めていた。MPOは聖マリアンナ医科大学の知的財産管理、ベンチャー企業の事業化支援(インキュベーション)、資金調達などを手がけたり支援したりする、一般の大学の知的財産本部とTLO、VCなどの機能を受け持つ会社として2004年7月に設立された。資本金は1000万円である。

 聖マリアンナ医科大学が教育と研究の二つのミッションに加えて、医薬品や医療機器、治療法を社会に発信していく第三のミッションを支援する会社として、MPOは設立されたのである。MPOの社長として、大竹氏は同大学発の優れたベンチャー企業に育つ可能性が高かったナノエッグを支援した。

大竹秀彦氏
大竹秀彦氏

 大竹氏がMPO創業に参画したのは、ある企業の社長にヘッドハンティングされたのがきっかけだった。東京大学の学生だったころに、いずれは自分の会社を設立したいと考えていた。このため、将来、MBA(経営学修士)コースに留学させてくれそうな外資系コンサルティング会社の米ベイン・アンド・カンパニーに入社した。「米コンサルティング企業は実力主義である点で選んだ」という。当初の計画通りに1997年9月に米ハーバード大学大学院のビジネススクールに入学し、99年6月にMBAを取得した。

 修了後に、あるヘッドハンティング企業から「米大手広告代理店のJウォルター・トンプソンの事業責任者に就職しないか」との誘いを受け、就職した。年齢的には若い事業部長として社員約40人を率いて、インターネットを利用するダイレクトマーケッティング事業を成功させた。事業の立ち上げを3人で始め、陣容を整えて売上げ7億円を達成した。

 事業が順調に育ち始めて、そろそろ自分の会社を設立したいと考えていた時に、「科学機器を販売する企業の社長を引き受けないか」と誘われた。この会社の社長に就任する話を進めていた時に、同社社長と親しかった聖マリアンナ医科大の病院長だった明石勝也理事長を紹介された。明石氏は「知的財産管理などを手がけるTLO業務の会社の経営を頼みたい」と口説いた。自分が始めてみたい会社構想に一致している部分が多かったことから、大竹氏はMPO設立を引き受け、その社長に就任した。就任時に「MPOが力点を入れて支援する案件5件の中の一つがナノエッグだった」という。

化粧品事業を先行させ、医薬品事業を着実に育成

 ナノエッグは肌に効く成分を化粧品として販売する事業をまず立ち上げた。医薬品事業を立ち上げるには、臨床試験など期間と高額の費用がかかる問題があった。このため、まず化粧品事業として化粧品を直接製造し自ら販売する事業と、その原料を化粧品会社などに販売する事業を推進した。ナノエッグの事業展開を順調に進めるには、創業時に山口氏が引き受けた社長と取締役研究開発本部長の両立が次第に厳しくなっていた。このため、大竹氏が社長を引き受ける経営体制に切り替えることになった。この結果、化粧品事業は現在、売上げが4億~5億円と順調に成長しているという。

 化粧品事業を前面に出した創業直後は、女性研究者を多く採用した。有能な社員を採用できることが多かったからだ。化粧品ユーザーの女性の立場に立てるという点からも女性社員(研究者)を主力とした。その後、本来の主力事業と考えている医薬品事業を強化するために、博士号取得者(ポスドク)の若手研究者を4人、技術営業ができる専門家を2人採用し、「社員の女性比率は少し減った」という。現時点で、総勢22人にまで陣容を拡大したところだ。この間に、VCからも投資を受け、事業投資費を確保することにも成功している。

 当たり前だが、化粧品を支える研究成果と医薬品を支える基盤技術は共通するものが多い。化粧品向けに上げた研究成果を医薬品を開発する基礎技術として使うことで、医薬品事業が進展するケースもありそうだ。もちろん、医薬品特有の部分もあるだろうが。「基盤技術となる化合物の組み合わせだけでも、知的財産やノウハウとして十分蓄積している考えている」という。例えば「NANOCUBE」と名付けられた皮膚再生技術は医薬品としても医薬部外品としても用途展開を目指している。皮膚のシミやしわを解消する用途などが考えられているようだ。

 今後も研究開発本部の陣容を拡充し「7年から10年後までに、医薬品事業を売上げ規模20億~30億円に育てたい」という。そして医薬品事業が立ち上がったころに、ナノエッグはIPO(Initial Public Offering、新株上場)を実現したいと語る。今後、ナノエッグが順調に成長していくとの自信の表れといえる。IPOによって次の事業投資の資金を獲得し、成長路線を確かなものにする計画だ。

 第三の事業として新規事業の開発案件を掲げる。サプリメントや飲料、食品などをターゲットとして考えているようだ。大竹氏は企業を成長させる事業戦略を練り、これに応じた研究開発戦略を練って、山口氏が率いる研究開発部隊が研究開発成果を上げ、それを知的財産として資産化し、有効活用を図っていく。当面は、事業、研究開発、知的財産の三位一体の戦略がポイントを握る。ここしばらくは、ナノエッグが打ち出す事業計画から目が離せないだろう。

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この記事の掲載当初,「聖マリアンヌ医科大学」としていましたが,正しくは「聖マリアンナ医科大学」です。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。