日本国内では,韓国メーカーのシェアが低く,日本メーカー間での販売競争が主に繰り広げられています。このような環境では価格は高めに設定でき,当分はこれを維持できるかもしれません。しかし世界市場に目を向けると,日本企業の打ち出している3Dテレビの価格を韓国企業との競争の中で維持できるとは思えません。日本企業は,国内ではできるかぎり長く3Dテレビの付加価値をキープして収益に繋げようという戦略なのでしょうが,それは一時しのぎに過ぎないと思うのです。

 3D機能を前面に出したテレビを販売すれば消費者がそれを欲しがるだろうという前提に沿って立てられた戦略により価格維持が困難だと私が思うのは,先に述べたとおり3Dテレビがハリウッドやテレビメーカーの思惑から出てきたプロダクトアウト型の製品だからです。そしてその思惑通りに3Dテレビが消費者のニーズ,ウォンツを喚起するに充分な製品としてのパワーを持つとは私には思えないからです。ここで私のいう製品のパワーとは,製品戦略,マーケティングにおいて,ニーズに合った商品をきちんと求めている人に届けていることで得られるものです。

 必要とされていない機能をどんどん付加して,それをよいものは売れるという発想から抜けきれずに消費者に押し付けると製品のパワーはどんどんなくなっていく。必要とされているかどうかは,製品の供給先地域の買い手の要望をきちんと把握しているかどうかにかかっています。これは純粋にマーケティングや戦略の問題です。

 日本メーカーの希望する価格は,消費者目線ではなく典型的な製造者発想の価格設定になっていると言わざるを得ません。十分なパワーを持つならば,製品の大半が3Dテレビに置き換わっていくでしょう。

 製品の持つパワーを機能の充実度だけで高めようとしても,それは買い手の実情にそぐわないかもしれません。買い手と売り手の思いがどんどん乖離していった場合,製品はパワーを失っていくでしょう。例えば,発展途上国の消費者に,大型の高精細カラーディスプレイと高画素のカメラやインターネットアクセスの機能を付けた携帯を供給しても,現地の消費者の要望は電話とショートメール,そして携帯電話でAMラジオを聞きたいというものだったら,日本製の高機能携帯電話は現地のニーズに合わず製品パワーは低いものになってしまいます。

 消費者は事態の推移を冷静に見ています。3Dテレビはゲーマーや一部のプレミア製品を好む消費者には受け入れられるでしょうが,一般家庭に広く受け入れられるだけの製品としてのパワーを持つとは,私には今のところ思えまないのです。そのうえ,販売戦略的に現地の顧客のニーズにかなった製品を,コンペティターとの競争の中でも売れる価格帯できちんと供給できているかという点でも疑問が残るのです。

 更に,3Dテレビにはもうひとつリスクが含まれています。