ハリウッドとしては,映画の興行成績を成長させる戦略として3Dに着目したのは当然でしょう。新しい刺激を求めている人にそれを提供するというのは,ビジネスとしてニーズの掘り起こしと採算ベースに乗る形でのその提供ということを映画会社も当然常に求めているからです。技術の進歩により,3D映像の撮影と編集は格段に容易になっています。映画館のデジタル化も進み,今,顧客に新しい付加価値を提供する条件が揃ったということでしょう。

 更に裏に潜むもうひとつの理由がハリウッドにはあります。それは盗撮による海賊版を減らしたいという思惑です。海外で流布している海賊版映画のソースの多くは,小型になった家庭用ビデオ機器による盗撮です。ところが3D映像を家庭用ビデオ機器で撮影しても,3Dの映像どころか2D映像もきちんと撮影できません。もちろん2Dを上映している映画館も並行して存在していますので,完全な盗撮防止にはなりませんが,方向性としてハリウッドの盗撮防止に役立つものと言えるでしょう。

 そして映画会社が3Dコンテンツを提供し始めた今,テレビを作っているメーカーにとっても,3Dテレビは新しい付加価値を簡単に提供できる救世主のように映っているのかもしれません。

価格は消費者にとって許容範囲なのか

 国内市場における30型程度の普及型の3Dテレビと通常の2Dテレビの価格差は,ざっと10万円程度になっています。大型になると価格差はもっと広がっています。3Dテレビのこの価格は妥当なものなのでしょうか。

 6月9日の日本経済新聞には,3Dテレビの売れ行きについてこう報道しています。『全国の家電量販店などの販売情報を調査するBCNが9日発表した集計結果によると,5月31日~6月6日の一週間で薄型テレビ全体に占める3次元(3D)対応テレビの販売額の割合は3%だった。3日に新たにソニーが3Dテレビを発売したことなどから,構成比は前の週から3倍に増加。量販店の間では「立ち上がりとしてはまずまずの売れ行き」との声が多い。販売台数ベースでも,先週の構成比は0.9%で,前の週から0.7ポイント増えた。』

 これをまずまずの立ち上がりと言えるのかどうかは,これからの推移を見ていかないとはっきりしたことは言えませんが,私にはテレビに占める3Dテレビの割合と価格の推移が気になりところです。

 メーカーの思惑通り,ある程度の割合を3Dテレビが占め,更にその価格を3Dという付加価値で2Dテレビに比べて比較的高く維持できるのでしょうか。既にアメリカでは,日本製品に対して韓国メーカーや米VIZIO,Inc.などが大幅に安い価格,しかも2Dテレビとそれほどは変わらない価格帯の3Dテレビを販売しており,既に価格競争が始まっています。

 韓国メーカーをはじめとする日本メーカー以外は,3Dは単なるテレビの一機能であると割り切っているように見えます。実際ある韓国企業の人物が,「倍速,4倍速で既に駆動している2Dテレビでは,めがねを駆動する回路を付加する程度で3Dは実現できるのに,3Dだからといってなぜ2Dに比べてこのような価格差を日本企業がつけるのか? これはワールドワイドを睨んだ戦略として明らかに間違っているのではないか」と発言しているのを聞いたことがあります。