はじめに

 2010年5月25日、宇宙戦略本部が「宇宙分野における重点施策について(案)~我が国の成長をもたらす戦略的宇宙政策の推進~」を公表した。今後この方針に基づき宇宙政策が進められることになる。まだ(案)の段階にもかかわらず、新聞各紙が取り上げており、世間の宇宙に関する高まりを感じる。

 しかしながら、新聞記事では「2020年に月に探査基地を 政府懇談会が計画案了承」(朝日新聞)、「月探査計画:10年後に月面無人基地 経費2000億円 政府懇談会が戦略案」(毎日新聞)という「月探査」という観点から、その夢に注目が集まっており、本報告書の大事なところを報じていないと感じた。

 筆者としては読売新聞の「宇宙産業10年で倍増・15兆円に…政府振興策」という観点に通じるものがあり、今回、私見をまとめてみることとした。

宇宙の開発利用を明確に打ち出した意義は大きい

出典:宇宙戦略本部資料より抜粋
出典:宇宙戦略本部資料より抜粋

 今回の提言案(pdfの資料)には「これまでの欧米に加え、中国、インドなどにおいて宇宙利用活動が急速に拡充しており、世界の宇宙利用産業は5年で倍増し、まさに「利用の時代」を迎えている」とある。これは、宇宙の開発利用を大きく前面に打ち出したいという意欲の表れと見ることができよう。意欲のみならず、「我が国の宇宙産業全体は、約7兆円規模(うち宇宙機器産業は約2300億円)。10年後に、宇宙産業規模を2倍の14~15兆円にする」と目標値までを示した意義は大きいと考える。

 宇宙基本法第1条では目的として「宇宙開発利用」がうたわれているが、これは当初「宇宙開発」のみだった文言を、民主党からの提案で変更したものであった。「研究開発」に閉じこもっている宇宙政策を大きく「開発利用」まで広げることに強い想いを抱き、宇宙基本法の策定に関与してきた筆者としては、今回の提言案は自分の考えた道筋にも沿ったものだと思っている。