5 高速増殖炉開発を巡る国際動向

 高速増殖炉の研究開発を積極的に行っている国は日本、フランス、ロシア、中国等数少なく、原型炉より一段階先の炉である実証炉「スーパーフェニックス」を運転していたフランスも経済的理由(高速増殖炉のコストは軽水炉の5倍ともいわれている)により同炉を廃炉したほか、2009年には原型炉「フェニックス」の運転も停止した。いわゆる西側諸国の中で、稼働している高速増殖炉は我が国の「もんじゅ」のみとなっていることから、なぜ我が国だけが高速増殖炉の研究開発に固執するのかという意見もある。

 しかし、高速増殖炉が現在稼働していないアメリカやフランスなどの国々が高速増殖炉の研究開発を放棄したわけではなく、近年は、各国が炉を建設して独自に発展させるより、原子力を利用している国々が国際的な枠組みの中で、協力し合って研究開発するようになっている。日本、欧米等が参加する次世代原子力システムの研究開発のための国際的な枠組み(GIF)においては、研究開発の重点対象として選ばれた6つの原子炉型式のうちに3種の高速炉が含まれているほか、2008年1月には、日米仏3か国における研究開発主体(日本:日本原子力研究開発機構、米国:エネルギー省、仏:原子力庁)の間で、高速増殖炉の協力に関する覚書(MOU)を締結している。

(出所)「原子力ハンドブック」(オーム社 平19.11)、「総合資源エネルギー調査会電気事業分科会原子力部会国際戦略検討小委員会」(第3回 平21.2.4)配付資料等を基に作成
国名
これまでの動き
アメリカ
・ 世界で最も早く1940年代から高速増殖炉の開発に着手し、豊富な技術・経験を蓄積している(現在、動いている実験炉、原型炉はない)。
・ 米国エネルギー省が中心となって、日本、フランス、イギリス、カナダ、韓国等の国々と協力し、現在では概念的な検討の段階にある革新的・先進的な原子力システムの開発に積極的に取り組んでいる。この中には「もんじゅ」と同じくナトリウムを冷却材とする高速炉の開発も含まれている。
フランス
・ 1967年の実験炉(ラプソディー)の運転開始から、原型炉(フェニックス)、実証炉(スーパーフェニックス)の建設・運転を行ってきた。このうち、フェニックス及びスーパーフェニックスは「もんじゅ」と同じくナトリウムを冷却材とする高速増殖炉である。
・ 原型炉「フェニックス」は、1973年8月に初臨界達成、基礎研究に使われていたが、2009年に運転停止した。
・ 実証炉「スーパーフェニックス」は、1985年に初臨界達成したが、政権交代に伴い、経済的理由から1998年12月に閉鎖を決定し、現在は廃止措置が進められている。
ロシア
・ 1973年に実験炉の運転を開始し、実験炉、原型炉2基と続けて高速増殖炉の建設・運転を進めてきた。
・ ナトリウムを冷却材とする高速実験炉(BOR-60)及び高速増殖原型炉(BN-600)は、電力供給及び地域の熱供給源として現在も稼働中。実証炉(BN-800)の建設が進められている。
中国
・ 1988年から高速実験炉の設計を始め、2000年5月に建設着工、2010年に臨界予定。
インド
・ 現在、ナトリウムを冷却材とする高速炉開発を積極的に進めている。1985年10月に高速実験炉の初臨界を達成し、原型炉の建設を進めている。
その他
・ イギリスやドイツは、現在、高速増殖炉開発を行っていないが、過去に実験炉や原型炉の建設・運転を通じて、高速増殖炉技術を蓄積している。

 また、主な国際的な枠組みは次のとおりである。

(出所)「参議院文教科学委員会調査室作成」
 開始年目的と高速炉開発への取組参加国
GIF
(第4世代原子力システム国際フォーラム)
2001
・次世代原子力システム(第4世代炉)の開発とその実証を目的・検討対象としている6概念のうち3つが高速炉概念
日米仏露他8か国
1機関
GNEP
(国際原子力エネルギー・パートナーシップ)
2006
・核拡散の脅威を削減し、環境に優しいエネルギーを世界中に広めることを目的・日米原子力共同行動計画として、高速炉技術WGで研究協力を実施
日米仏露他23か国
1機関
INPRO
(革新的原子炉及び核燃料サイクルに関する国際プロジェクト)
2001
・革新的原子力システムを導入するための評価手法や制度の整備を目的・高速炉を用いた閉燃料サイクルの評価、世界的原子力ビジョン共同研究等を実施
日米仏露他21か国

 このような国際的な動きを注視しながら、核燃料サイクル技術の研究開発のあり方を検討していかなければならない。