前編 ではサムスン(Samsung)が韓国の中でいかに特別な存在であるかということと,厳しい競争に勝ち抜いた優秀な人材だけがサムスンに入社できるということについて述べた。しかし,実は,もっと大変なのは入社してからの競争である。

厳しい社内競争とトップダウン・マネジメント

 サムスンでは人事評価の査定幅が大きく,毎年10%以上年俸が増える人もいれば,中には減っていく人もいる。このため,同期入社でも何年か経つと年俸に倍半分の差がついてしまう。このため,上司に評価してもらいたいという社員の意気込みには並々ならぬものがあり,上司に命令されればどんな困難があろうとも必ず完遂しようとする。ちょうど軍隊のようなもので,上司の命令に対して部下が拒否する権利はなく,不満やストレスを抱えたとしても決して弱音をはかないその姿は賞賛に値する。

 社員の評価も厳しいが,役員の評価はそれ以上に厳しい。経営に失敗したトップは失脚し,どこかへ消えて二度と日の目を見ることはない。従って,トップの意気込みは社員の比ではなく,文字通り人生をかけて仕事を推進している。ちなみに,サムスンの役員には会社からパソコンが支給され,自宅で会社のネットワークに接続して電子決済をしている。就業時間中は忙しくてなかなかメールを読む時間がないため,真夜中や休日に決済をするわけである。どれくらい自宅で会社の仕事をしているかはモニターされており,役員の人事評価にフィードバックされている。筆者の元上司も心筋梗塞になり集中治療室で一命を取り留めたが,身体が壊れるほど無理をしなければならないというのは正直可愛そうだと思う。

 「サムスンとインテルの社員は一日25時間働く」というジョークを聞いたことがある。しかし,それはそれほど間違った表現ではないと思う。サムスンでは上司が命令すれば部下は倒れるまで働く。逆に身体をこわさないように十分配慮するのが上司の大事な役目でもある。一方,インテルでは個人の裁量の範囲が広く自分で仕事を管理しなければならないので,四六時中仕事用の携帯型パソコンを持ち歩いている人が多い。現地時間の真夜中にメールが帰ってくると,彼らは一体いつ寝ているのだろうかと心配してしまう。

 サムスンはスローガンが好きであり,どこの事業所に行っても垂れ幕がある。垂れ幕には漢字が使われることも多く「世界一流企業」や「革新」「飛躍」などの言葉がよく使われる。中には「富国強兵」などという文字もある。韓国人男子は2年2カ月の兵役が義務づけられており,軍隊的な発想も自然に受け入れられているようである。

 また,連帯感や士気を高めるようなイベントも多い。例えば,全員で同じトレーナーを着て山に駆け上り,頂上で横断幕を持って全員で拳を握りしめ「サムスン○○○○,ファイティーング!」などと叫ぶ。その時の写真はロビーに張り出されるという具合である。こういう活動には最初は戸惑ってしまうが,「体育会系のクラブに入った」と思えば違和感がなくなる。筆者は,部下達とのワークショップで日本式の三三七拍子を応援団風の振り付けで伝授し,大いに盛り上がってとても楽しかった。

明確な製品開発戦略

 サムスンの強さの秘訣は「明確な製品開発戦略」にある。一言で言えば「世界で最もコスト競争力のある製品を世界で最も生産性の高いラインで大量生産しトップ・シェアを取る」ということに尽きる。