東京大学教授の丸川知雄氏
東京大学教授の丸川知雄氏
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――中国ローカルメーカーのものづくりの実力というのは本当のところどの程度向上してきたとお考えですか。

 自動車,家電,デジタル機器などに共通するのは,設計から生産までの品質管理力については,日系メーカーと中国ローカルメーカーの間にはまだ大きな差があるということです。中国ローカルメーカーの実力は輸出すると,相手国の市場でバレてしまうということを繰り返してきました。もちろん,ハイアールのように依然として日本市場に挑戦しているメーカーもあって,そこでもまれて品質管理能力をつけてきていますので,ウオッチする必要はあると思います。

――自動車とデジタル家電では,アーキテクチャの違いもあって,中国ローカルメーカーの実力の度合いも違うと思うのですが。

 自動車とデジタル家電という二つの製品ジャンルで,大きな差があるのはコストダウン技術だと思います。まず自動車は,アーキテクチャ面ではインテグラル(擦り合わせ)ですし,部品点数も多い複雑な製品ですから,中国ローカルメーカーの実力が上がってきたといっても,まだ日本・欧米メーカーのクルマのコピーの域を出ていません。真似すべき欧米・日本のクルマの車種も多く,各要素を組み合わせるとバラエティーは豊富に作り出せるので,中国国内市場向けにはなんとか新車を出し続けています。しかし,コストダウンという面で見ると,自前の設計は行っていませんから,日本メーカーがやっているようなVE(バリューエンジニアリング)まではなかなかできないという現実があります。結局のところ,中国ローカルメーカーのコストダウン技術とは,材料を低グレード品に変えたり,部品メーカーを極端に買い叩いたりといった,持続的なものではないことが多いです。そこに,日本メーカーはVEで本質的なコストダウンをするという優位性があると思います。

 一方で,デジタル家電は,アーキテクチャがモジュラー(組み合わせ型)的であるということと,台湾のメディアテック社に代表されるような設計をサポートしてくれるLSIメーカーの存在もあって,技術面での実力差は縮まってきているという現実があります。私が特に注目するのは,一部のコストダウン技術では日本メーカーが思いつかないようなものも出現しているということで,日経エレクトロニクスでも紹介されていました(関連記事)。日本メーカーはそこに謙虚に学ぶ姿勢も必要だと思います。

――中国ローカルメーカーがインドやアフリカ諸国への攻勢を強めています。この状況をどうみますか。

 例えば,携帯電話機では,中国ローカルメーカーが自国内のボリュームゾーン向けに販売している端末や基地局などのインフラをインドやアフリカ諸国に果敢に輸出しています。なかでもインド市場は,欧州企業や中国企業が激烈な競争を繰り広げ始めていますが,日本メーカーはスズキなど一部を除いて,非常に影が薄いですね。言い換えれば,中国のボリュームゾーンを失うことと,インドの市場を失うことは連動してきているのではないか思います。

――中国ローカルメーカーは,日本などの先進国では品質問題で苦労しているが,インドやアフリカでは十分受け入れられるということでしょうか。

 よく考えなければいけないと思うのは,インドなどのアジア諸国やアフリカ諸国のボリュームゾーンで今求められているのはけっして最先端の技術ではないということです。携帯電話機でいえば,GSM方式などの枯れた技術なわけです。日本では見向きもされないような枯れた技術が,これらの国々で急速に拡大しています。例えば,ナイジェリアでは1年に携帯電話の市場が倍になるようなことが起きている。そして,そうしたアフリカ諸国で基地局などのビジネスを取って,実際に収益を上げているのが中国メーカーなわけです。

――まさに,かつて欧州メーカーが中国市場でやったことを,今度は中国メーカーがアフリカでやっている・・・。

 そうです。例えば,華為技術(ファーウェイ・テクノロジー)やZTEといった中国メーカーは,中国の内陸部から始めて,アフリカを攻め,さらに南アジアの比較的所得水準の高いところに攻め上がってきています。世界のボリュームゾーンを基盤に中国メーカーは攻め上る戦略をとっているのです。ただ,日本メーカーが収益の柱にしている米国市場まではなかなか到達はしていないので,ライバルとして見えてこないという面はあります。