2010年4月20日、前原誠司宇宙開発相の私的懇談会「今後の宇宙政策の在り方に関する有識者会議」が宇宙庁の設立を含む提言書を出したという。宇宙庁といえば、筆者も本連載でたびたび指摘してきた事項だ。おおいに賛同できる提言もあるが、見逃せない部分もある。私見を付言しつつ報告書の詳細を見ていきたい。

国内宇宙機器事業撤退の多さが問題意識

 有識者会議が抱く問題意識の出発点は、わが国の宇宙産業にみられる衰退傾向だ。国内宇宙機器産業については、就業人口が減少しつつあり、撤退社数の累計も過去8年間で54社を数えており、現在の国の投資額(2500億円程度)では宇宙産業は維持できていない。この結果、ロケット・衛星・地上系において製造や入手が不可能となるとみられる部品までも生じ始めている。

 これまでの連載でも指摘してきたが、国内企業撤退の最大の責任はJAXAにある。第一に、JAXAの設置が国内産業育成プランと連動していない。第二に、JAXAに長期的プランがないことが挙げられる。長期的プランを公表しないことには、民間企業にとっては、製品開発や営業のタイミングもわからない。これでは衰退して当然である。

出典:内閣府資料
出典:内閣府資料

3つの提言

 有識者会議による、事態打開策は「3つの提言」に集約される。

【提言1】
『自在な宇宙利用能力』*1は、我が国の「外交力・ソフトパワーの維持」および「安全保障」のために「戦略的に推進すべき政策課題」である。上記目的を達成するために、国内の宇宙産業(人材・技術と製造ライン)の成長が必要。

【提言2】
国の投資が効果的に宇宙政策の実現に寄与し、さらに新規参入を含めた民需の拡大に繋がる施策が緊急かつ最重要な課題である。利用を意識した研究開発(イノベーションエンジン)と、産官学一体となった宇宙システムの社会インフラ化(グリーンイノベーション等)と海外市場の獲得(パッケージ化戦略)が必要。

【提言3】
我が国の宇宙政策の透明化、および意思決定と予算執行の一元化を促進するために、内閣府の下に宇宙庁(仮称)を設立するべきである。全省庁横断的な国家戦略の立案が必要。また民間の経営意識も取り入れた、情報分析・施策立案・運用が必須である。

【選択と集中】
上記提言を実現するために、5月中に関係省庁と公開討論を実施、8月までに組織改革を決定し、来年度法案・予算に盛り込むべき

*1 ロケット等により宇宙に行く能力、衛星等により宇宙で活動できる能力

 一つひとつの提言はvery goodであり、よくぞ言ってくれたという印象だ。ただ少々辛口となるが、筆者としてはどうしても、以下3点を指摘せざるをえない。

(1)国際的な競争・協力の観点が欠如しているのではないか。
(2)宇宙自体が利益を上げる産業になるといった基調だが、それは難しいのではないか。宇宙の技術や利用の民生事業へのスピンオフにより初めて、わが国の経済にプラスにつなげられるのではないか。
(3)大変失礼なことを承知で言わせていただくと、構成メンバーが学者に偏りすぎているのではないか。民間人が入っていないのはちょっと納得できない。

民需掘り起こしのための課題