真のキャッシュフローマネジメントとは?

 また、別の角度から、TLC指数を見ていく。本連載の第3回において図6に示す「先行行投資部分と回収状況の可視化」について説明した。回収ポイントより以前(図の青色部分)は、製品を販売してモノが売れていても実質的には利益が出ていない。先行的に投資した部分(=固定費)を回収しているだけの期間となる。当たり前だがこの発想が重要であり、製品1個あたりの損益管理をしていると、製品を販売したら直ぐに利益が出ているかのように錯覚をしてしまうのである。製造業は、先行的に投資した固定費を、時間をかけて回収する(=固定費回収ビジネス)という視点転換を行えるかである。そして、この回収ポイントを迎えて、初めて『利益ゼロ』の状態になる。この『利益ゼロ』(=回収ポイント)を意識し、いかに早めるかのマネジメントが生き残りの鍵となる。

図6:先行投資部分と回収の状況の可視化
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 これを、図7のように製品シリーズや事業単位にて横並びに管理する。ある製品の「利益部分」の余剰金を用いて、他製品の「先行投資部分」を穴埋めできれば、キャッシュは健全化する。個々の製品にて余剰金を作るためにも、回収ポイントを早める(=TLC指数を下げる)事を目指し、製品毎のキャッシュを改善する。それを元に期間でのキャッシュフローを健全化させるマネジメントが必要なのである。

図7:事業構造のキャッシュ健全化
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 キャッシュフローというと、本分である製品の製造販売を無視し、財務テクニック(支払条件変更・為替予約・タックスマネジメントなど)に頼っている企業を多く見かける。小手先の財務テクニックでは根本的な解決にならない。図8のような「プロダクトベース・キャッシュフローマネジメント」を行い、事業構造としてのキャッシュの健全化を目指す必要がある。

図8:プロダクトベースキャッシュフロー管理票
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 繰り返しになるが、製造業は固定費回収ビジネス(投資-回収)ビジネスである。コストマネジメント以上に、キャッシュマネジメントを重要視しなければならない。キャッシュマネジメントは、財務部が検討する事ではない。事業企画・原価企画・設計・製造・調達など製品開発に携わる全ての人が意識をし、マネジメントしていくことが重要となる。まず、その意識付けのためにも、製品毎にキャッシュの回収スピードを評価する『TLC指数』の導入を行ってもらいたい。

【まとめ】
(1)キャッシュをマネジメントするために、以下の三つの当たり前を行うこと
●「期間損益」から「製品ライフサイクル損益」への移行
●「製品損益」から「製品+サービス+オプション損益」への移行
●「個別損益」から「製品系列での損益(どんぶり勘定)」への移行

(2)キャッシュの回収スピードを評価する『TLC指数』の導入を行うこと

(3)「プロダクトベースキャッシュフローマネジメント」にて、事業構造としての健全化を図ること