例えば、「クスリ」だと思って服用した「改革手法」は、実はその症状にはあまり効能を示さず、副作用ばかりが目立ってしまっているとか。クスリは、いつでもどんな人にでもどんな状況にでも効くわけではない。ところが副作用という弊害はちゃんと発現し、状況によってはそれが深刻な状況を招いたりもする。同様に、せっかく○○手法を導入しても、正の効果を負の効果が相殺してしまったり、むしろ負の効果ばかりが目立ってしまったりするようなことだってあるだろう。

 そんな例として以前、「成果主義の弊害と弊害と弊害」という題目でこの制度の負の効果について書かせていただいたことがある。私自身が疑問を感じるだけでなく、実際に多くの方が「成果主義の導入によって、全体としてはモチベーションの低下が目立つようになり、かつ会社への忠誠心が著しく低下した」と指摘しておられたからである。

 ただそれは導入後に語られるようになったことで、日本の企業はある時期こぞってこの制度を高く評価し取り入れた。格闘ゲーム風に説明すれば、こんな机上の計算があったのではなかろうか。

 従業員の100%が同じ給料であれば、平均能力値1.0×平均士気値1.0×100で、総戦闘力は100。そこへ成果主義を導入し、給料に差をつければ、半分の人は給料が増え士気も上がり、半分の人は給料が減って士気も下がる。上がった方のグループは平均値的に能力が高い人たちだから、例えば平均能力値1.5×平均士気値1.5×50で戦闘力は112.5、下がる人は0.5×0.5×50=12.5で、これらを足せば総戦闘力は125となる。

 そんな胸算用があったなら、「ちょっと制度を変えるだけで25%も戦闘力が上がるの?だったら給与総額を少し減らしてもOKだね」ということになるだろう。弊害を気にする声があっても、「これだけ効果があるんだから、弊害なんて気にしてらんないよ。何?辞めちゃう人が出るって?どうせそれは士気が下がるやつ、つまりは能力の低いやつらだろ?それならむしろ大歓迎だよ、ハッハッハ」などと経営者は笑い飛ばせたかもしれない。

 けど、専門家によれば、人は程度の差こそあれ自身の評価は甘く、他人の評価は辛くなりがちで、極めて公正な評価をしたとしても多くの人が「不当に低い評価を受けた」と感じるのだという。さらに、行動経済学の原則によれば、人は「損をした」ときに「得をした」ときの3倍大きな精神的ショックを受けるなどという。

 これらの要素を盛り込むと、上の計算は大きく変わってくる。まず、「半分の人は士気が上がり、ほかは下がる」というのは間違いで、ごく一部の人だけ士気が上がり、大多数の人は下がるということになるだろう。その比率を25%、75%とし、各平均能力値を0.25ずつシフトし1.75、0.75とする。さらに、士気値を「3倍法則」に従って修正すれば、1.2、0.4となるかもしれない。そこで戦闘力を再計算してみると、1.75×1.2×25+0.75×0.4×75=75となり、導入前より逆に25%も企業の戦闘力が低下するということになってしまうのである。