新たなReTweet機能は、他のユーザーのつぶやきをそのまま発信するもので、自分のコメントを挿入できなくなったのだ。引用される側には、自分の発言が勝手に書き換えられてしまうことがなくなるというメリットはあるが、今でも賛否両論がある。

 さて、前置きは長くなったが、ここで考えたいのはTwitter社が考えるReTweet機能についてである。どのような意味があるのだろうか。

 私はこの連載を通じて、ネット上の人間同士のつながり、いわゆる「ソーシャルグラフ」が脳の仕組みに近いのではないかと主張している。

 脳細胞は、シナプスで結合された他の脳細胞から受け取った電気信号に応じて発火する。そこから、さらに別の脳細胞に次々と信号が伝わり、最終的に脳全体が何らかの判断を下す。この脳細胞のシナプス結合が、インターネットのソーシャルグラフによく似ていると思うのだ。

 Twitterに限らず、ブログやSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)では、他のユーザーの投稿を見たことがキッカケになって、自分なりの考えをネット上に発信することが多い。そうすると、その発信を読んだ別のユーザーがまた別の何かを発信する。ネット・ユーザーの間を情報が伝播していって、最終的に世論が形成されるわけだ。

ヒトの思考を自動で伝搬する装置が出現

 SNSやブログでは投稿を読むだけの、いわゆる「ROM」のユーザーも多く、自分で書き込むユーザーは5%程度とも言われる。Twitterは、この“書く”行為の敷居をものすごく下げた。最近、あるセミナーで、「ブログを書いたことがある人」と「Twitterでつぶやいたことがある人」のそれぞれについて参加者に手を上げてもらったが、Twitterでつぶやいた経験がある人は圧倒的に多かった。

 だが、それでもなお、つぶやけない人は多い。Twitter社が実装したReTweet機能は、そうしたユーザーにとって投稿の敷居をさらに下げたと言えるだろう。自分の意見をつぶやくことには抵抗があるけれど、「これ面白い!」「これは他の人にも伝えたい!」という感情が沸き起こった際に単に「RTボタンを押しさえすればよい」という機能だからである。

 このボタンの出現で、ネット上のソーシャルグラフはさらに脳に近づいたような気がする。ある人のつぶやきが、電気信号として自分の手元にやってくる。それを面白いと思って「RTボタン」を押せば、他のユーザーに電気信号としてつぶやきが転送される。

 まさに「発火」である。