前回のコラムでは、話題の「フリービジネス」について考えてみた(前回の記事「“無料より高いものはない”、のか?」はこちら)。IT(情報技術)ビジネスの本質は、(1)デジタル情報はコピーしても原価がかからない、(2)ソフトウエアが自動で売り上げを稼いでくれる、という2点にあり、この特徴が利用料などを無料にするフリービジネスを収益性の高い新しいステージに高めたという話である。

 今回は、このITビジネスの本質をもう少し掘り下げてみたい。「複製に原価がかからない」「コンピュータが自動で売り上げを稼ぐ」という仕組みを、ヒトと機械の関係という角度から見ると別の景色が見えてくる。

 その一つは、ヒトにしかできない作業や思考の領域が次第に絞られているということだ。「Tech-On!」読者が携わるものづくりの分野では、産業用ロボットの導入によって工場で働く人々の数が減っている。海外への生産シフトで日本国内に工場すらない製造業も珍しくなくなった。

流通業でも“産業用ロボット”が台頭

 これは、製造業だけの話ではない。インターネットやITの普及によって、他の分野でも同じ状況が生まれている。楽天や米Amazon.com社のようなネット通販企業は、これまで店舗の店員さんが担ってきた「商品と顧客のマッチング」をネットで自動化した。これは、流通業における産業用ロボットの導入と考えれば、分かりやすい。

 楽天などが提供する仮想商店街の販売システムを使えば、極めて少人数で全国規模の店舗を出店できる。その効果は大きい。リアルな店舗を持つ百貨店などが苦戦する中、ネット通販大手の取扱高が軒並み過去最高になっているのは象徴的だ。

 「ヒトの創造(想像)力があればこそ」という印象が強いデザインなどの芸術に近い分野も同じである。パソコンや家電に搭載されるCPUの処理能力が向上したことで、素人でもかなり質の高い作品を自動的に作れるようになった。

 例えば、カシオ計算機が展示会に最近出展したデジタル・フォトフレームの試作機は、写真を水彩画風や油絵風などに自動変換して表示できる。デジタル・カメラでは、撮影した写真をポップアート風やジオラマ風などに自動補正し、まるでプロが撮ったかのように仕上げてくれる機能を持つものもある。組み込み用マイクロプロセサの処理能力でも、素人写真を玄人はだしの作品に仕上げられる便利な世の中になった。