「原価計算」

 この言葉に対して、どのような事を求めるだろうか? 「詳細に」「迅速に」「精度良く」・・・多くの方はこのような答えを返す。前回(『どんぶり勘定』のススメ)において、その「原価の精度」とは何か? こんな問いをきっかけに、多くの企業での「会計=計算」という誤解や、無暗に原価の精度を求めてしまう現状を説明した。それにより、ことあるごとに、「原価の精度が悪い」「原価が見えない」そんな言葉が飛び交い、挙句の果てには、原価の精度が悪いため「意思決定できない」。こんなマネジメントを放棄する企業についても触れた。今こそ、「儲かっているかの判断を行う」という、会計の原点に立ち返るべきである。そのために、『どんぶり勘定』にする。時間軸にて企業損益を可視化し、投資における回収ポイントを明確にすべきと説いた。『どんぶり』という発想は非常に大きなパラダイムシフトが起きるはずである。前回に書ききれなかった事があるため、今回はその補足を行いたい。前回と少し重複する内容もあるが、重要な考え方のため、理解を深めるために視点を変えて説明を重ねたい。

『どんぶり』と『いいかげん』は違う

 では、『どんぶり勘定』は、具体的にどのように考えていけばよいか? 誤解があってはいけないので付け加えると、『どんぶり』と『いいかげん』は別である。無意味に原価の精度を荒くしたり、精度の良い原価を否定しているのではない。原価の活用目的を理解し、適切な粒度で管理する必要があるということだ。まずは、図1を見てもらいたい。横に採算管理における費目、縦に製品階層の粒度を置き、マトリクスにて費目の管理粒度を決める必要がある。横の費目に関しては、前回に紹介したが、製造部分だけではなく企業のバリューチェーン全体を網羅しておく必要がある。そして縦の製品階層の粒度が重要なポイントとなる。図1では、シリーズ>モデル>製品>ユニット・・・としているが、これは企業や製品によって階層は異なる点に注意が必要である。どのような階層であれ、多くの企業では、『配賦』という行為を駆使して、製品レベルで原価を把握しようとしているのだ。

図1:費目管理の基準
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 では、本当に製品別に原価を把握する必要性があるのだろうか? 材料や部品の費用、加工や組み立ての費用、設計の費用、営業の費用など、様々な費用を製品別に把握する事が良いと思っていないだろうか?極端な例になると、製品別・ロット別・オーダー別原価をリアルタイムに把握する事を試みている企業もあった。案の定、高額な会計パッケージの導入や大量のマスタ設定が必要になり、大きな労力・多額のお金・多くの忍耐を費やしていたのである。

 そんな、製品別(場合によっては、ロット別・オーダー別)原価把握を試みている企業に会うと決まって問いかける事がある(是非、読者の皆さんにも答えてもらいたい)。

 「製品別原価をなぜ可視化するのですか?」「目的は何ですか?」

至ってシンプルな質問である。無論、多額のお金をかけて導入を推進しているプロジェクトリーダーであれば、簡単に答えることができる問いである。今まで、何十社にもこの問いを投げかけているが、

 「製品別の収益を把握するためです」
 「どの製品が儲かっているか判断するためです」
 「原価計算の精度を上げて、正しい意思決定をしてもらうためです」

約8割くらいの企業からは、こんな答えが返ってくる。

 「製品別の収益を見て、どんな意思決定やアクションに繋げるつもりですか?」

と、質問を続けると、多くの方は答えに行き詰まる。原価の精度が上がれば、今まで見えなかったものが見えるようになり、高度なマネジメントが出来ると妄想を抱いている事が多い。会計や原価の活用目的を決めないまま、とりあえず原価を詳細に緻密に可視化しようとしている企業を多く見てきた。原価"管理"が目的ではなく、原価“計算”が目的となってしまっているのである。読者の企業においても、原価“計算”が目的になっていないか、今一度確認をしてもらいたい。