――日本が頑張ってきた人工光型植物工場ならば、オランダに勝てると…。

 「勝つ」というより、各々の特徴を生かして市場を開拓していければいいですね。実は、私はオランダの太陽光利用型植物工場でつくられたトマトなどは日本人の口には合わないと思っています。それでも、ハンバーガーに入れるとか、ドレッシングと合わせて使うとかニーズは多様で大きいわけです。それに対して、日本の人工光型植物工場でつくられた葉もの野菜は野菜そのものがとにかく美味しい。先ほども述べたように、この美味しさなどを「品質保証」していくことが日本の強みになると思います。

――それでも、オランダは「太陽光型植物工場」を輸出産業に育てた先輩なわけですね。そこに学ぶものも多いという気もします。

 それはそうです。オランダは、太陽光植物工場プラントを世界中に輸出しています。現地で使い方は教えますが、中身、とくにノウハウを詰め込んだコンピュータプログラムの部分はブラックボックスにして、簡単には真似できないようにしています。それと、自動化や無人化を進めていると言っても、やはり相手は生き物ですから、栽培上のノウハウがあって、これについてはオランダ人がプラント導入時に教育するシステムになっています。オランダ人指導者が引揚げるとうまくいかなくなるという声もよく聞きます。このあたりも参考になると思います。

――植物工場の関係者に話を聞きますと、今回の第3次ブームをブームに終わらせたくない、と皆さん口を揃えて言います。その一つのポイントがこれまで聞いていた植物工場が輸出産業としての国際競争力をどう上げていくかだと思うのですが、ブームをブームで終わらせないために大切なことは何だとお考えでしょうか。

 第1次や第2次ブームがブームで終わってしまったことに対する反省点の一つは、植物工場を農業という狭い視点で捕らえがちだったということです。その意味で、今回の第3次ブームでは前にも述べたように、経済産業省も本腰を入れて、製造業などとの連携を前面に打ち出してきました。私は、製造業のほかにも、サービス業、福祉・介護を含めた健康産業を含めたより広い視野を持って、多様なニーズに対応するものとして植物工場をとらえなおすことが大切だと思っています。つまり、植物工場は、環境問題、食糧問題、エネルギー・資源問題、高齢化・貧困・格差問題を同時並行的・総合的に解決する基盤技術の一つであることを忘れてはなりません。

 そうした広い視点から、輸出産業としての植物工場の未来が見えてくるのではないでしょうか。せっかく、国が補助事業として力を入れて、貴重な血税を使うわけですから、さまざまな産業分野の方が一緒に共通の高い理念と目標を持って取り組むことで、国際競争力を上げる方向にもっていきたいと思っています。

古在豊樹氏
東京大学農学系研究科修了。大阪府立大学、千葉大学園芸学部教授、同園芸学部長、同環境健康フィールド科学センター長等を経て、2005年から千葉大学学長を務め、2009年より千葉大学名誉教授、客員教授。