――中国、台湾、韓国が植物工場にも力を入れ始めたと聞いています。

 そうです。中国はすでに施設園芸面積では日本の数十倍を有する「大国」になっています。実際、かなりの量の野菜が日本に輸出されていますね。他方、日本の人工光型植物工場技術に強い興味を持っていまして、私たちのところも含めて日本に視察にやってきて写真をパチパチ撮って多くの質問をして帰っていきます。一生懸命学ぼうとする中国の方々の熱意には実に感心します。それでも、中国の人工光型植物工場は決してうまくいっていません。日本が培ってきた総合技術としてのノウハウはなかなかすぐに真似できるものではないのです。日本はこのノウハウをうまく生かして輸出産業としての国際競争力を高める必要があると思います。

――具体的にどの国にどのような「製品」を輸出する計画が進んでいるのでしょうか。

 製品形態としては、国内の植物工場でつくった生産物を現地に輸送するケースと、工場そのものと栽培のソフトウェアを一体化したプラントを輸出するケースの二つに大別されます。他方、施設園芸の部品(サブシステム)の輸出も有望です。生産物については野菜などは地産地消が原則ですから、苗や薬草などの付加価値の高い作物に限られます。苗や薬草については、重さあたりの単価は半導体と同じ程度で空輸が可能ですから、有望な分野だと思います。

――植物工場で作った苗に対するニーズは高いということですね。

 今、世界的に見て、植林用、森林再生用、砂漠緑化用、都市緑化用の「良い苗」がなくて困っている状況があります。野菜苗、花苗、熱帯果樹苗の需要も大きいです。これまで歴史的に人類は森林をどんどん伐採してきましたし、砂漠化も進んでいます。植林したり、緑化しなければならない土地は膨大にあります。苗に対する需要だけでも、毎年何十億本、何百億本と言われています。しかも、各地域の土壌や環境に合った苗でなければ、うまく育たないという問題があります。その点、植物工場でつくった苗は、病原菌などもなく、各地に最適な苗がつくれるというメリットがあります。特に、日本の人工光型植物工場でつくった苗の品質の高さには定評があります。

――一方のプラント輸出についてはオランダが先行していると聞いています。日本としてはどう対抗していけばよいとお考えですか。

 オランダは歴史的に土壌環境の面と狭い国土の面で施設園芸を重視せざるを得なかったために、植物工場でも先行しています。ただし、オランダが手がける植物工場は太陽光利用型です。彼らの考え方は、とにかく無人化と自動化を進めて、スケールメリットを追求することです。オランダ国内の競争も激しいですし、盛んに海外にも進出しています。今から、太陽光利用型でオランダに追いつくのは至難の技だと思います。日本はより高い品質を実現できる人工光型植物工場でまずは勝負するべきです。太陽光利用型植物工場は、トマト、キュウリ、パプリカ、ナスなどが主要品目となます。他方、人工光型植物工場は、草丈が低くて多段式工場に適し、生育日数が短い、葉もの野菜、薬草・ハーブ、苗、小型根菜類、小型花き類が主要品目になります。将来的には、それら両方が畑作物とも一体になって有機的に運営されることが望ましい姿です。

 なお、オランダの植物工場用コンピュータソフトウェアは35年間の蓄積と改良があり、素晴らしいものです。他方、それゆえに、それを根本的に書き換えることはできない状況です。日本が、最近の情報技術に基づいた斬新なコンセプトで新たにソフトウェアを構築すれば次世代ソフトウェアとしてアジア標準さらには世界標準にすることが可能ではないかと思います。

――人工光型植物工場では、日本の脅威となる国はないのでしょうか。

 今のところ、日本の独壇場です。過去には欧米諸国も検討していたことはあるのですが、諦めてしまって今やっているのは、第1次、第2次ブームの後でもしぶとく開発研究を続けていた日本だけです。