研究開発成果を反映する特許内容が多種多様な理由は、社員が意欲的にやってみたいという研究開発テーマにダメ出しをしないで、まず始めさせるからだ。同社は1年当たり約400件の研究開発テーマを実施する。研究開発は人間がやるだけに、研究者本人が強い興味を持ち、解明したいというモチベーションが研究開発時でのひらめきや粘りを生み出し、独創的な研究開発成果に結びつくケースが多いからだ。

 ただし、アルバックは野放しで研究開発をさせている訳ではない。研究開発の進捗しんちょく状況はしっかり上司や経営陣などが聞く。その研究開発の進展の可能性を研究開発者本人と適時議論する。現在の研究開発テーマの方向の先に何かありそうかをきちんと議論する。この結果、「研究開発者本人がこの先には見込みがあまり無いと気づかせることもある」という。

 研究開発者本人は自分がやりたい研究開発テーマだけに、始める前に意欲的によく調べ、考える。この結果、よく考えられた研究開発計画が練り上げられる。良い研究成果を出すために、最新の研究成果などをよく勉強するために、同社の研究開発者の研究開発力は全体として高まる仕組みだ。研究開発者のモチベーションを高めることが、研究開発マネジメントの重要な役割になっている。

 最近は多くの製造業で事業不振が続いているため、研究開発テーマ自身でも選択と集中を実施し、研究開発者のモチベーションを高めることに苦心している企業が多い。こうした中で、アルバックは独自の研究開発マネジメントによって研究開発型企業としての存在感を高めている。例えば、太陽電池向けの研究開発は30年以上前から綿々と続けられてきた。この蓄積した研究開発基盤があったため、ここ数年間の太陽電池向け製造装置向けの事業が成果を上げ始めたといえる。

社員間の情報共有の場を設け、暗黙知・形式知を伝達

 アルバックの研究開発体制を支える仕組みの一つは有名な「戦略研究会」だ。毎月1~2回、土曜日に自由参加で新商品開発を議論する場である。経営陣から中堅社員、若手までが参加し、あるテーマを基に自由に議論する。原則、結論を出さない。時間内に予定調和のような結論を無理して出すのではなく、本音でしっかり議論し合うためだ。議論でのぶつかり合いは「根に持たない」ことをお互いに申し合わせている。本音の議論をするためだ。実際には「互いの主張がぶつかり合い、むっとすることもたまにはあるのだが」と中村会長は苦笑する。

 戦略研究会は、会社の職務ではない自由参加の議論の場だが、同社にとっては誰が現在、どんな研究開発テーマを担当し、どんな成果を出しているかなど、同社が持つ最新の研究開発成果の科学・技術体系が分かる仕組みだ。最近の製品は多数の要素技術を組み合わせ融合させたものが多いだけに、異分野の研究開発成果やその際の体験を互いに技術伝承する重要な場として働く。異分野での最新の研究開発成果に刺激されて、新しい発想が生まれることも少なくないだろう。

 アルバックは1980年代後半に、半導体の製造装置分野で他社に後れを取り、業績が低迷した時期があった。こうした事態を防ぐために、戦略研究会のような自由闊達かったつな議論の場が必要となった。先輩の発言内容から研究開発のポイントや成果の評価の見方などを学ぶ場として機能し、同社の研究開発者などが持つ暗黙知や形式知を伝える知識共有の場となった。戦略研究会は、同社の研究開発力を底上げする仕組みになっている。もちろん、日ごろの仕事面でも知識の共有化を図るための文書化などの仕組みも設けている。

同社は職務面でも熱心に議論する。初めから結論ありきの予定調和的な会議は同社にはない。ある結論を出すまでは、とにかくダラダラとでも議論する。なかなか結論が煮詰まらない場合は、たとえ夜中までかかっても、その時点できちんと議論をし、一定の結論を出す。この方が、結局は研究開発や製品開発、事業などでの方針決めが「結果的にタイミング良く迅速に決められるからだ」という。経営陣や社員の製品開発での意思統一にもなるからだ。