このことは、「競争」という要素を加えて考えてみると分かりやすい。コピーしても原価がかからないのだから、販売価格を低くしても大量に販売できれば、一定量の利益を稼げる。

 だとすれば、競合サービスより価格を低く設定しても販売機会を増やす方がいいという考え方になる。競合企業同士が同じ考え方をすると、互いに相手よりもどんどん価格を下げていくことになり、最終的には無料で提供し、別のところで収益化するという形に落ち着く。

 「複製に原価がかからない」「コンピューターが自動で売り上げを稼ぐ」というITビジネスの本質が、フリービジネスを新しいステージに高めた。このことを企業やユーザーが直感的に感じているから、冒頭で紹介した書籍『フリー』に多くの人々が興味を持つのだろう。

フリービジネスがものづくりを侵食

 ここにきて、フリービジネスの旗手であるGoogle社が携帯電話機を売り始めるなど、インターネット発のフリービジネスはリアルなものづくりの分野を次第に侵食し始めているように見える。もちろん、同社が無料で携帯電話を配っているわけではないが,今のGoogle社には携帯電話会社と同じようなことをやってのけそうな迫力がある。インターネットにさえつながっていれば、ほかのデジタル家電の可能性だって…と思わせてしまう。

 正直なところ、私自身、デジタル時代のフリーエコノミーに、ものづくり企業がどう対処していくべきか、何か答えを持っているわけではない。ただ、今のうちから考えておかないと、手遅れになりそうな気がするのだ。読者の皆さんとのコミュニケーションを通じて、何らかの解にたどりつければと思っているので、ぜひコメントをいただけるとうれしい。