「足りない」が前提の社会に

 増え続ける世界人口と経済成長の中で、これからは、世界の人々が求める需要を全ては満たし切れない時代になっていきます。急激に伸び続ける需要に対して、供給が追いつかないという問題が次々とでてきます。「あらゆるものが足りない」という現実に、いやでも向き合わざるを得なくなるのです。これからのビジネスは、「供給は有限である」ということを前提に考えていかなければなりません。

 これからの世界は、「あらゆるものが足りなくなる」ということを前提として考えるべきです。具体的には、資源やエネルギー、水、食料などが明らかに不足していきます。「不足」には、生産が追いつかないということと、物理的に足りないという両方の意味があります。爆発的な人口の増大に加え、経済的な成長によって購買力が高まること、さらには「米国的ライフスタイル」ともいうべき、肉食中心の飽食や大量生産による使い捨てなど、経済力に任せた過剰消費型の生活習慣の広まりに起因する喫緊の問題です。これは、政治的な意図が強く影を落としている地球温暖化対策より、はるかに重要かつ深刻で、しかも目前に迫ってきています。つまり、「環境」「資源」「エネルギー」への対策を一体として捉え、「このままでは世の中が続かない。だからどうすればよいか」をあらゆる場所と局面で考えていくことが必要なのです。

 例えば「水」を考えると、地球上で自然に循環する量は一定です。人口が増えたり、経済が伸びたりしたからといって、都合よく水が増えるわけではありません。供給が一定なのに需要が増えれば、それだけ確保は難しくなります。また、水と農作物の生産は密接にかかわっています。人口の増加や経済成長によって肉食が増えれば、その何倍もの穀物が必要になります(例えば、豚肉1kgを生産するためには7kgの穀物を要するといわれています)。さらに近年では、農作物はバイオエタノールやバイオプラスチックの原料としても注目を集めているため、新たな需要を抱えることで水と農作物の需給逼迫は加速すると考えられます。

 エネルギーや資源についても、今後の逼迫は避けられないでしょう。石油や天然ガスなどの資源は、使い続ければいずれ枯渇してしまいます。資源開発には最低でも10年は掛かるため、生産量を急に増やすようなことはできません。これはエネルギー資源に限らず、レアメタルやシリコンなどでも同じことが言えます。枯渇までには至らなくとも、資源保護のために供給国が輸出を制限することは容易に予測できます。

 インドの本格的な経済成長をきっかけに、世界共通のテーマは「環境問題」から「サスティナビリティ」――「将来にわたって食料や資源、エネルギーをいかに安定確保するか」へと変わっていくことでしょう。これまでのビジネスは、ひたすら効率の良い「生産(=消費)」だけを考えればよく、「安く・早く・大量に」という考え方が幅をきかせてきました。しかし、今後はあらゆるビジネスにおいて、原材料の「調達」はもちろんのこと、ビジネスそのものを持続させるために、再利用や再資源化など「循環」を真剣に考える必要に迫られるでしょう。

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