新興国市場のニーズは先進国とは異なる

 すでに中国の伸びは、世界経済の様々なシーンに影響を及ぼしています。さらにこれからは、その中国を上回る勢いでインドが台頭していき、2030年頃の人口は中国を抜いて世界ナンバーワンになると見込まれています。中国はしばしば「龍」に例えられますが、もう一匹「虎」であるインドが解き放たれて世界を揺り動かす、というのがこれから10年の基調になるでしょう。

 新興国の成長で、米国をはじめとする先進国の地位が相対的に低下することは避けられません。しかし、中国やインドが先進国の仲間入りを果たすことはないでしょう。なぜなら、新興国の現在の成長率がいくら高くても、先進国との経済格差を少しずつ縮めていくに過ぎず、決して埋めることはできないだろうと筆者は考えるからです。

 先進国と新興国は1人当たりGNIで分類するのが一般的です。現在の先進国の1人当たりGNIは概ね3万5000米ドル以上であり、英国や米国など一部の国では4万米ドルを超える国もあります。金融や先端テクノロジーによる付加価値などで、先進国の経済成長は続くでしょう。そのため、たとえ成長率が年平均2%台に下がったとしても、2025年の1人当たりGNIは4~5万米ドル台に達すると考えられます。それに対して、仮に中国が今後15年間、年平均8%という高い経済成長を続けたとしても、15年後の経済規模は現在の3.17倍に過ぎません。2007年の1人当たりGNIは約2350米ドルでしたから、2025年になっても1万米ドルに満たないことがわかります。しかも、高齢化が始まれば社会的負担が増えますから、当然のことながら経済の成長率は落ちていきます。

 日本のみならず、先進国のほとんどがこれから人口減少期に突入していきます。市場として今後大きな成長が期待できるのは、中国・インドを始めとする新興国だけでしょう。しかし、新興国市場は規模こそ億単位の巨大なものですが、1人当たりの平均所得は5000~6000米ドルだということを強く認識する必要があります。その程度の所得水準の人々が買える携帯電話やテレビ、自動車こそが、これからの世界におけるメインストリームになるのです。

 重要なのは、新興国市場が求める機能や品質、デザインなどは先進国のスタンダードとは決して同じではなく、それは将来的にも変わらないということです。エアバックやハイテク設備を満載して「自動車はかくあるべし」などと先進国のスタンダードを押し付けても意味がありません。

 人口予測からもう一つ確実に言えるのは、「中国の成長は永遠には続かない」ということです。現在の中国経済を牽引している中心年齢層は、15年後には60歳を超えていきます。さらに2030年頃には高齢化が本格化し、人口減少が始まる見通しです。その後の世代は1人っ子政策の影響で人口構成の歪みが大きいだけに、再び適正な姿に戻すには2世代(50~60年)は必要でしょう。つまり中国の経済成長はどんなに長くともあと15年であり、その後は失速する可能性が高いということです。一方、インドは中心年齢層が若いため、今後30年以上は成長が続く可能性が高いと考えられます。

「足りない」が前提の社会に