世の中は今、「歴史的な転換点」を迎えていると筆者は確信しています。これまでのやり方では限界が見えた以上、それらを捨て、まったく新しいルールや新しい価値観に世界を塗り替えていかなければなりません。生活も大きく変容し、当然のこととして、あらゆるビジネスにおいて「サスティナビリティ(持続可能性)」という観点からの見直しが迫られることになるでしょう。

 これから産業と企業は、サスティナビリティへの対応いかんで明暗が分かれていきます。日本のような資源の乏しい国にとって、サスティナビリティは「サバイバビリティ(生存可能性)」でもあるのです。サスティナビリティの本質を理解し、覚悟を決めて前へ踏み出した企業は、社会の劇的な変化に耐え抜き、生き残ることができるでしょう。一方で、サスティナビリティを単なるエコやグリーンブームと安易に捉えてしまっていると、いきなり原料や材料が入ってこなくなるといった危機に直面するリスクが非常に高いと言えます。

 サスティナビリティの重要性は、筆者のライフワークともいえる『未来予測レポート』を企画・執筆する中で、過去のトレンドや変化の構造を丁寧に見ていくことによって、将来の姿として描き出したものです。サステナビリティの重要な側面の一つが「人口」です。

 人口予測は、疫病や大きな戦争など余程のことがない限り、極めて高い確度で予測することが可能です。世界人口は2008年現在で約68億人ですが、国連や世界銀行などでは2050年には92億人まで増加すると見込んでいます。1950年の世界人口がわずか25億人程度だったことを考えれば、人口は爆発的に増加していると言えるでしょう。人口爆発はほぼ100%予測できる未来であり、これからのビジネスはこのことを前提に考えていく必要があるのです。

 特に中国とインドは共に10億人を超える人口を抱えており、この2カ国だけで世界全体のおよそ4割を占めています。そして、少なくとも今後20年は人口が増え続ける見込みです。「人口爆発」は、突き詰めれば中国とインドの話だということが分かるでしょう。細かく見ればインドネシアやブラジルなど人口が増える国はほかにもありますが、全体からみれば誤差でしかありません。

 人口構成をみると、その国が伸びるかどうかを高い確度で予測することができます。日本と中国、インドの年齢分類別の人口分布を見てみましょう(図参照)。高齢化が進む日本では、中国やインドと比べて55歳以上の人口が明らかに多いのがわかります(中国とインドは最新の統計がそれぞれ2000年、2001年であるため、頭の中で9~10年分上にずらした状態をイメージしてください)。

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 中国の経済がこの10年ほどで急激に伸びているのは、全人口に占める労働人口の割合が高いことが大きな要因です。事実として、1人当たりの国民総所得(GNI)は2000年の約930米ドルから2007年には約2350米ドルと、2倍以上に増えています。特に現在は、人口のボリュームゾーンが働き盛りの40歳代半ばにさしかかっているため、国としてのパワーは最盛期にあると言えるでしょう。しかし、あと15年ほどでこの中心層が今度は高齢者に移り、2030年以降は中国も人口減少期に入ると予測されています。「1人っ子政策」によって若年人口がいびつに少なく、男女比も歪んでしまっています。ボリュームゾーンが引退する時期になれば、経済成長に急ブレーキがかかるでしょう。

 対照的に現在のインドは、ボリュームゾーンである若い世代がようやく学校教育を終え、社会に出て働きだす時期にさしかかっているところです。2007年時点でのインドの1人当たりGNIは約950米ドルであり、2000年ごろの中国と似た状況にあります。さながら高度成長期直前の様相を呈しています。

 働き盛りの労働人口の割合が大きい時には、国は力強く成長します。この状態を「人口ボーナス」期といいます。逆に現在の日本のように高齢者人口の割合が大きくなると、社会コストの負担が重くなってくるため経済の発展が鈍くなっていきます。このような状態を「人口オーナス(onus)」期といいます。かつて日本の高度成長期がそうであったように、人口ボーナス期に突入するインドの経済は、これから急激に成長するに違いありません。人件費の安さ、また地理的にも「中国の外注先」として伸びていく可能性が高いでしょう。この10年で「もう一つの中国」が誕生するのは、ほぼ間違いないと考えられます。

新興国市場のニーズは先進国とは異なる