“透明アモルファス酸化物半導体TFTとディスプレイ応用”と銘打って,国際会議「International Workshop on Transparent Amorphous Oxide Semiconductors(TAOS 2010)」が1月25~26日にかけて東京工業大学すずかけ台キャンパスで開催された(Tech-On!関連記事1同関連記事2同関連記事3同関連記事4)。透明アモルファス酸化物半導体TFT(TAOS-TFT)は,“次世代FPD”を駆動するTFTとして期待を集めている。Si系TFTによる現行のパネルを高精細,高速化し,さらにフレキシブル・ディスプレイのような新しい応用を開く可能性を秘めていると考えられているからである。

 FPD業界が注目するホットなテーマであることに加えて,今回の国際会議は参加費無料にもかかわらず23件もの講演が聴けることもあってか,聴講者は360名を超えたようだ。講演者には,世界を代表する研究者が勢ぞろいした。TAOS-TFTの発案・提唱者である東京工業大学教授の細野秀雄先生(TAOS技術をここまで育ててきたことに敬意を表して,本稿では細野先生と表記する)をはじめ,既にTAOS-TFTを使ったディスプレイを発表している韓国Samsung Electronics Co., Ltd.,韓国LG Display Co., Ltd.,台湾AU Optronics Corp.(AUO),シャープ,凸版印刷,大日本印刷に加えて,キヤノンや公立の研究機関,そして大学の研究者である。とはいえ,TAOSというだけでこれだけの聴講者が集まるとは,まさに驚きである。

 筆者は4~5年にわたりTAOS-TFTについて学会などを通してウォッチしてきたが,その実用化については,これまで懐疑的な立場を取ってきた。20年以上も使い続けられているアモルファスSi TFT(a-Si TFT)を置き換えるまでの理由が見いだせないでいたからである。確かに,TAOS-TFTを使ったディスプレイの発表が相次いでいることからも分かるように,TAOSの技術開発はにわかに活発化している。しかし,大盛況だった今回のTAOS 2010の議論をすべて聴いても,筆者のこれまでの主張を覆すまでには至らなかった。煎じ詰めれば「a-Si TFT液晶パネルと同等(ほとんど変わらず)では,流れは変わらない」のである。

 とはいえ,TAOSが期待の新材料であることに変わりはない。筆者も,その成功を大いに期待している。TAOS-TFTを花咲かせるためには,現状を正しく理解し,課題を認識することが重要である。以降では,TAOS 2010から見えた酸化物半導体の現状と課題について議論する。

AUOがTAOS TFTによる37型フルHD液晶パネルを発表

 TAOS-TFTの魅力はその移動度である。細野先生曰く「8cm2/Vsを保証します」というだけに,a-Si TFTに比べて1ケタ高い値である。加えて,スパッタリング法で成膜したTAOSによってTFTを造れたり,300℃程度の熱処理で特性が安定したり,透明材料である,という特徴がある。

 この数年間にTAOS-TFTを使った液晶パネルや有機ELパネル,さらに電子ペーパーの試作発表が相次いでいる。学会講演会や展示会で見るそれらのディスプレイの画質は,Si系TFTを使ったディスプレイと比べて全く遜色(そんしょく)がない。「TAOS-TFTを採用しています」というただし書きがなければ,「今さらこのような小さい画面サイズのディスプレイをなぜ展示しているのだろう」と不思議に思うくらいだ。

 今回のTAOS 2010では,AUO社がTAOS-TFTを使ったディスプレイとしては最大の画面サイズとなる37型フルHD液晶パネル技術について発表した。試作品の画像は写真(講演資料)でしか見られなかったが,原理から考えて,おそらく従来型パネルに比べて遜色はないだろう。

 37型パネルを試作するためには,いわゆる第4世代(基板寸法680mm×880mm~730mm×920mm)のTFTアレイ生産ラインが必要である。TAOS材料をスパッタリングで成膜するための装置やターゲット材料,加工技術などのインフラが整いつつあるのだろう。