けど、難点もある。麻薬のように「好きなときに好きなだけ」とはいかないことだ。うーんと気張ったところで、ぐんぐん分泌されるようなことにはならないだろう。じゃあ、どうやったら体内で生成されるのか。そんな話を以前、日経エレクトロニクス誌の取材で、「情報環境学」の提唱者であり山城祥二の名で芸能山城組を主宰する音楽家でもある大橋力(おおはしつとむ)氏にお会いした際にうかがったことがある。

 そもそも大橋氏は化学の専門家で、化学物質が人間に与える影響について深い関心を寄せておられた。すなわち、公害を代表とする環境問題である。ただ、化学物質は外部からもたらされるばかりではない。人間が自分の体内でも作り出す。脳内麻薬はその典型例だが、その生成、分泌のキッカケになるのが「情報」なのだと大橋氏はいう。

 たとえば、音楽を聴く。それによって、ある種の化学物質が生成される。不快な騒音を聞けば、さらに別の化学物質が生成されるかもしれない。つまり、環境を論じるのであれば、外部からもたらされる化学物質だけでなく、人体が化学物質を生成、分泌するキッカケとなる情報について十分に考慮しなければならない。そのための「情報環境学」なのだ、といったお話しだったように思う。

ナゾの人物に取材する

 おお、そうなのか、なるほどといたく感銘し、取材を進めることにした。で、次にお会いしたのは、さる公的研究機関の研究者の方だった。たぶん。というのは、取材場所が某省の庁舎だったという記憶は残っているのだが、研究機関の名も研究者のお名前もさっぱり思い出せないからである。そもそも、何の記事を書こうと思ってこんな取材をしたのか、それさえまったく思い出せない。

 けど、話の内容は鮮明に覚えている。彼によれば、脳内麻薬の利用法に関しては大昔からノウハウが蓄積されてきているのだという。その一つが宗教。例えば、僧侶になるための修行カリキュラムなどを分析すると、脳内麻薬をうまく分泌させ、その脳内麻薬の影響による身体的、精神的変化(例えばハイになっている状態)を利用し、目的を達しようとしていることがよくわかるのだと。新興宗教の修行などにも、その要素が濃縮されたかたちで組み込まれているらしい。