これらの阻害要因を取り除くためには、人的資源をオープンにしてダイバーシティーを積極的に取り入れるしかありません。私は欧州のとある成長を続けるグローバル企業を内側から見てきた経験があります。トップダウンの指揮系統と共に、世界各地から人材を登用し、クロスファンクション組織とダイバーシティーをうまく活用してターゲットに合う商品を開発している現場を見て、いわゆる日本流のビジネス手法とまったく違うことに驚きを禁じえませんでした。

 ダイバーシティーは何をもたらすのでしょうか。それは様々な視点と経験です。

 何か問題があると、一般に人は自分の経験、成功体験に照らし合わせ、自分に都合よく解釈できるように事態を理解する傾向があります。解決法が知られている既知の問題の場合は、その経験、成功体験を共有すればするほど、すなわち社会がハイコンテクストであればあるほど、効率よく対処できるでしょう。しかし、今までにない問題や、場合によって問題自体に気付かない事態が多く起こりうる昨今では、解析的・直線的に見えている問題を解くだけで答を得られるという従来の発想では限界があります。過去の経験を応用する方法では、ターゲットのニーズに応えてビジネスを上手く回すことができないのです。

 これからは、他社の気付かない問題を自ら発見し、それを解くことにより新しいビジネスモデルを創造していくという、問題設定型のアプローチが求められます。そしてこの問題設定型アプローチは均質化した人的リソースからではなく、ダイバーシティーのある組織からもたらされるのです。ダイバーシティーのある組織により、今までの成功体験で捉え切れない多様化した市場のニーズをうまくつかむことは、今の日本企業が身に付けていかないといけない大きな思考様式、アプローチ法だと考えます。

 日本企業は、今までの成功体験から抜け出し、ターゲットを明確化して自社のオリジナリティーを活かした製品・サービスでどのように差別化していくかを考える時期に来ています。そのためには、単にサプライチェーンを開いてコスト競争力をつけるという安易な考え方は禁物です。ダイバーシティーを大事にして、新しい問題を設定し解いていくというアプローチで、他社と差別化できるビジネスモデル、製品、サービスを創造していかなければならないと思うのです。

生島大嗣(いくしま かずし)
アイキットソリューションズ代表
大手電機メーカーで映像機器などの研究開発、情報システムに関する企画や開発に取り組み、様々な経験を積んだ後、独立。既存企業、ベンチャーのビジネスモデルと技術の評価、技術戦略と経営に関するコンサルティング、講演などに携わる。現在は、イノベーション戦略プロデューサーとして活動している。生島ブログ「日々雑感」も連載中。執筆しているコラムのバックナンバーはこちら