「実力差」は製造スピードだけではない。竹下氏の話で特に考えさせられたのは、今回の新規投資ラインで、さまざまなコストダウンの工夫を盛り込んでいるという指摘である。例えば、電極材スラリーやスリット(裁断)などの製造装置を国産化しており、価格は「日本製の装置を4~5としたら、韓国製は2」に抑えているという。

 もともと製造装置については日本メーカーの独壇場であり、韓国の電池メーカーも最初民生用途でキャッチアップする際には、日本製の装置を導入していた。こうして巨額投資や大量生産を続ける内に、韓国メーカーは量産技術の基本仕様をマスターするに至る。自動車用途でも第一世代のLiイオン2次電池では、民生用途の材料系と大きな変化はない。こうして、新規にラインを立ち上げる際には、韓国のローカルメーカーに製造設備を造らせることが可能になったのである。

 最先端技術が要求されるところに韓国産の装置を使うことは難しいにしても、日本や欧米の装置を模倣して格安の装置を国産化する戦略は、半導体や液晶パネルそして工作機械まで広く見られる現象である。歴史は繰り返す…。

 では、日本メーカーはどうしたらよいのか。その答えは、「走り続けるしかない」(竹下氏)ということのようだ。材料系を一新して、基本仕様を変えることによってキャッチアップしにくくする戦略だ。

 「幸い」と言うべきか、第一世代と言われる現状の自動車向けのLiイオン2次電池は、性能、コスト共に極めて不十分で、技術革新へのニーズは非常に高い。日本メーカーは、第1.5世代や第2世代とよばれる新材料を使った電池の開発を加速するしかないのだろう(Tech-On!関連記事)。

 「赤の女王」のように走り続けることが宿命だとしても、後発メーカーのキャッチアップの速度を遅くして、多少の余裕は欲しいものである。そのためには、電極材料をブラックボックス化するなどいかに真似されにくいように工夫するかが重要になる。

 そして、もう一つの見方としては、日本メーカーが新材料開発などの技術革新によるイノベーションに優位性を持っているとしたら、韓国メーカーはコストダウンというもう一つのイノベーションに優位性を持っていると認めて、そこに学ぶ、または逆にキャッチアップする姿勢が大切ではないだろうか。

 韓国メーカーは確かに、日本メーカーの技術を模倣してきたわけではあるが、模倣だけではここまで成長できなかったという見方もある。4年ほど前のコラムで紹介したが、ある調査機関の方は、韓国メーカーの強さの原点は、鉄鋼メーカーのPosco社にあると見ていた。「最も安い鉄鉱石と燃料を使えるように高炉を立地して世界最適調達を図る」という徹底した低コスト戦略をとることによって、圧倒的な供給力を確保して競争力を上げるという成功体験が他の半導体や自動車でも生きたとみる。これは、Liイオン2次電池の量産工場でもいかんなく受け継がれているようだ。