三輪車で始まる移動体系以外に、携帯もデジカメも、マウスだってソファーだって私の身の回りのパートナー達にはみなこの魂を宿らせることができるのです。半導体技術の発達やIT技術の発達の行く先には、あらゆるモノに魂が宿る八百万の世界が開けているのです。

 人工物のハードウエアは、その付加価値の付け所が最後には必ず電装化によるインテリジェント化になるという運命が待っています。インテリ化は、複雑で高価なセット品から入ってきていますが、半導体が限りなく安くなりビット単価が無限にゼロに近づくわけですから、最後にはペンにも服にも半導体は入り込んでくることでしょう。ユビキタスな時代、シリコンと共生する時代です。徐々にシステム化する道具たち、セット品のモジュラー化という技術潮流に乗って、稚拙ながらもゆっくりと、でも着実に生物のように“波化”する方向に進んでいます。そこでは各個体に個性が与えられ、よりパートナー感が育まれることでしょう。

 一方の魂の機能を担うべきソフトウエアとは、記憶の蓄積だということのようです。幼いころからご主人様と行動を共にして、積み重ねてきた使用履歴や操作ログが、伴侶としての魂の原資になりそうです。その魂が実装されるセット品は、三輪車から自転車へというように形を変えていきますが、実装される器をまたいで引き継がれていく構造となることでしょう。これを恐ろしい未来と考えるよりは、「普通じゃん」と思えるのが日本人の世界観のように思います。我々が昔から持っていたアニミズムの世界観に近い気がしませんか。イワシの頭でも信心できる、針や包丁だって供養する私たちです。

川口盛之助(かわぐち・もりのすけ)
慶応義塾大学工学部卒、米イリノイ大学理学部修士課程修了。日立製作所で材料や部品、生産技術などの開発に携わった後、KRIを経て、アーサー・D・リトル(ADL Japan)に参画。現在は、同社プリンシパル。世界の製造業の研究開発戦略、商品開発戦略、研究組織風土改革などを手がける。著書に『オタクで女の子な国のモノづくり』(講談社,2008年(第8回)日経BP・BizTech図書賞受賞)がある。