カスタム化は人の生み出す技術の宿命

 製品のカスタム化とは、そのモノへの愛着を生み出す大きなエネルギー源の一つです。一人ひとりの人間に必ず個性があるように、モノにも個性を与えるための第一歩がカスタム化です。生命に近づくには、個性を与える必要があるのです。大量生産イコール均一規格という時代は、設計技術や生産技術が稚拙だった故の過渡的現象でしょう。今後システム化による個別カスタム化が当たり前となってゆくことは、ある意味で技術が高度化する際の宿命なのです。

 特注品と表現されるカスタム品もあります。新品の時点からオレ様だけのための専用仕様になっているものです。また、使い続けるうちに個性を帯びてくるものもカスタム品です。部品の交換や増設を繰り返すうちに、気付いたら他にはないほどオレ様に摺り合わさった仕様に育成されたタイプです。育てゲー(育成シミュレーションゲーム)みたいなものです。

 日本人は八百万で汎神論的な世界観を持っています。ゆえに、モノへの擬人化を通して感情移入が容易であるという特徴があります。モノへの愛着を生み出しやすいという特徴はこのカスタム化との親和性が高いはずです。システムが高度化され、企画力で差をつける時代、それは言い換えると、技術で達成すべき「機能」を発見する能力が求められる時代です。そのような時代には日本人のモノをパートナーとして捉えられる感覚が優位に作用するはずだと思います。

 ここまで波のメカニズムで人やモノのハードウエアの話をしてきましたが、人を語る時に肝心の“魂“の部分はどうでしょうか?ソフトの部分の話です。新品の時の私たちの波の形を決める情報源はDNAです。どんなアミノ酸をどんな順列で組み合わせるのだ、という設計図です。一卵性双生児の行動研究からもわかっていることは、かなりの部分がDNAに支配されているということのようです。しかし双子でも異なる人生経験から大きく運命は変わります。やはり人生とは体験や記憶そのものだと感じます。

ソフトは共有記憶である

 部品をとっかえ・ひっかえしながら、長く使うほどに愛着を増していく個性的なマシンができた時、そいつの魂の部分とは、蓄積された記憶だということが見えてきます。ご主人様たる私との関係性における、イベント記憶の積み重ねがそいつの魂なのです。例えば人の一生に寄り添う自動車の場合を考えてみましょう。三歳のお誕生日に買ってもらった三輪車。最新の三輪車ですからセンサーやGPS、メモリーなども実装されているとしましょう。転んだ記憶や、遊んだ場所など様々なご主人様の操作ログをとって残しておくことができます。要はドライブ・イベントレコーダーです。成長するとともに、やがて三輪車は自転車になり、バイクになり自家用車になり、電動カートになるでしょう。その際にメモリーに残されたご主人様との大事な共有記憶は、器を越えて引き継がれていくのです。ハードが変わっても受け継がれる共有記憶。これが愛機の魂ということになる、と理屈が言っています。