これまでの常識を捨てて,電子デバイス産業の閉塞感を打破
図1 電子デバイス市場の成長に立ちはだかる壁。2008年までは実績値,2010年以降は予想値。半導体はWSTS,FPDは1996年以降は米DisplaySearch社,1995年までは本誌推定,太陽電池は富士経済,MEMSは仏Yole Developpement社,LEDは野村総合研究所のデータ。
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この半世紀の間で,半導体や液晶パネルなど電子デバイスの進歩は,人々の生活や社会活動の在り方を劇的に変えた。その電子デバイスの成長に壁が見え始めている。微細加工技術の進歩と基板の大型化に頼った技術開発,高性能なIT(情報通信技術)関連の電子機器を広く普及させることに注力する応用開拓,垂直統合型から水平分業型への産業構造の移行。こうした電子デバイス市場が急成長した要因となった手法が通用しにくくなった。しかし,次の成長につながる未来の芽は既に出てきている。過去の成功にとらわれずに,育成していく必要がある。
微細化と大面積化に頼らないデバイス開発
産業としての電子デバイスは,これまで三つのトレンドに沿って進化してきた。これから私たちは,電子産業の栄光を彩ってきたこれらのトレンドを,一度否定して考えるべきだ。必ずしも今のトレンドが正確とは言えないことが分かる。
第1のトレンドは,微細加工技術の進歩と基板の大型化に頼った技術開発である。半導体では,微細加工技術を進化させて,デバイスの高性能化,高集積化,低コスト化を推し進めた。一定のペースで加工精度を向上させていけば,デバイスの性能やコストを指数関数的に改善できた。また,液晶パネルなど他のデバイスの開発にも応用できた。Siウエーハや液晶パネルの製造に用いるガラス基板などの大面積化も,デバイスの低コスト化に欠かせない手法だった。多数のデバイスを一括製造し,これを切り出すことで,デバイス1個当たりの製造コストを削減する。これは,生産効率を高める上での定石になった。
しかし,こうした微細加工技術の進歩と,製造に用いる基板の大面積化は,設備投資と開発投資の額を劇的に増大させた。そして,技術的な限界に達する前に,事業面での限界に達して,数多くのデバイス・メーカーが事業から撤退していった。
既に従来トレンドが突き当たった事業面での閉塞感を打ち破る可能性を秘めた技術が実用化してきた。有機EL照明や色素増感型太陽電池,フレキシブル・ディスプレイなどへの応用が期待されている印刷技術である。また微細加工技術に代わって,新材料を積極的に導入することによって,パワー・デバイスのような,これから市場が急拡大する新しいデバイスを作り出していこうとする機運も高まっている。
環境問題や高齢化などに対応する応用開拓
第2のトレンドは,高性能なIT関連の電子機器を広く一般の消費者まで普及させることに注力する応用開拓である。「軽薄短小」という言葉に象徴される機器のダウンサイジングによって,高度なIT機器を個人で所有できるようにした。その結果,一般家庭にはパソコン(PC),デジタル・テレビ,家庭用ゲーム機といった高度なコンピュータが,当たり前のように何台も置かれるようになった。しかし,もはや高性能なコンピュータとなった携帯電話機を一人一台所有するようになった今, IT機器のダウンサイジングだけでは,市場が飽和する可能性が出てきている。
こうした市場の飽和感を打破する新しい応用の開拓が進んできた。まず,環境問題に対する意識の高まりや少子高齢化といった社会環境の変化に対応して,食料,住居,光熱・水道費,保健医療など,これまで電子技術が縁遠かった分野を対象にした応用の開拓を進みつつある。これらの分野では,ダウンサイジングによる民生化というIT機器で成功した手法が,まだまだ通用する。例えば,光熱・水道費を削減するために発電所をダウンサイジングして一般家庭に安価に普及させる。保健医療費を削減するために,人間ドックで使っているような検査機器をダウンサイジングして日常で使えるようにするといった考え方である。
また,民生機器ではなく社会インフラの部分にもデバイス市場の牽引役が生まれつつある。代表例がデータ・センター向けの電子機器である。クラウド・コンピューティングの発達によって,情報の蓄積や処理といった消費者の手元にある端末の機能を,ネットワークの先にあるデータ・センターに集中させつつある。社会の中で,インフラ側と個人所有機器の機能の再配置が起こっているのだ。データ・センターで扱う情報の量は,指数関数的に増大し,この部分での電子機器の需要は高まる一方だ。
日本を電子技術の発信源に
第3のトレンドは,産業構造の垂直統合型から水平分業型への移行である。デバイス開発から機器の製造,アフターサービスまでを一貫して行う総合電機メーカーによる垂直統合型から,専業のメーカーが役割を分担する水平分業型へと変わっていった。これによって,PCや携帯電話機,デジタル・テレビのような主要な応用分野の量的な拡大に,最小限の事業リスクで対応することができた。一方で,日本の電子デバイス・メーカーは,この水平分業化の流れに取り残され,徐々に存在感を失っていった。
ただし垂直統合型の利点を生かす余地は残されている。水平分業化を進めるためには,材料,製造装置,電子デバイス,機器の各分野の技術を擦り合わせ,結果を標準化することが前提となる。日本企業がこの擦り合わせを進めて製造技術をプラットフォーム化し,海外企業への技術供与に取り組む。こうすれば,製造ではなく,技術開発で電子電業をリードする可能性が出てくる。パワー・デバイスやLEDといった現時点では業界構造が固まり切っていない分野で,自社での製造にこだわらずに,海外企業への技術供与を推し進めることも検討に値する。
五つの提言
電子デバイスの成長を阻む壁を打破するためには,従来トレンドにとらわれない策が必要になる。NIKKEI MICRODEVICESは,未来のデバイス事業を生み出すための五つの提言を示している。これらの提言はほんの一例にすぎないが,今後,あらゆる分野のメーカーが進むべき道を表しているはずだ。五つの提言は,本誌2010年1月号の特集「電子デバイス,未来に向けた提言」で詳細に解説する。
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