薄型ディスプレイ業界において,2009年で最も注目を集めた部材はガラス基板とLEDである。われわれが最近発行した2種類のLED調査レポートに基づき,最新の市場予測とコスト分析例を紹介したい。

 LEDは電気エネルギーが直接光に変わる発光素子であり,研究機関やメーカーの努力により年々発光効率を大幅に改善してきた。2008年から2009年にかけて,その発光効率は蛍光管と同等のレベルを実現してきており,ディスプレイ分野をはじめ照明用など様々な分野での採用が加速している。

 画面サイズが10型以上のディスプレイ用では,2008年からノート・パソコンでのLEDバックライト採用比率が高まった。2009年は,前半でテレビ用での採用が本格的に始まり,第4四半期にはモニター用バックライトでも採用が本格化しつつある。照明,車載などディスプレイ以外の用途でもLED採用は加速しており,LED需要は急激に拡大している。

 LEDにおける老舗メーカーは日亜化学工業,豊田合成,米Cree, Inc.,独OSRAM Opto Semiconductors GmbH,米Philips Lumileds Lighting Co.である。様々なアプリケーションの市場が急激に拡大する中で,今年急激に立ち上がったテレビ用として,これら5社から最終製品であるLEDパッケージを購入することが困難になっている。

 従来,TFT液晶パネル・メーカーは供給不安がある場合,垂直統合でこれを解決してきた。ガラス基板などの素材は垂直統合が非常に困難だが,LEDは基本的には半導体であり,ドライバIC同様パネル・メーカーにとっては本来垂直統合しやすい部材であるはずだった。実際ほとんどのパネル・メーカーが内製や関連会社でまずパッケージ工程に投資し,続いてウエーハ工程への投資を行ったり,計画したりしている。

 LED製造において最も重要な工程は,基板上に金属膜を形成するエピタキシャル拡散工程であり,現在の主流は有機金属気相成長法(MOCVD)である。LEDは複雑で微妙な製造工程を経て作られており,その光量や波長にばらつきが生じることはやむを得ないといわれている。

 ただ,ばらつきも問題ではあるが,新規参入にとって最大の悩みは老舗メーカー並みの発光効率が実現できない点にある。老舗LEDメーカーですら新規MOCVD装置を購入した後に長期間をかけて装置をカスタマイズする必要がある。発光効率の低いLEDチップをバックライトに使用すると,老舗メーカーのLEDと同じ光量を確保するためにより多くのLEDチップが必要となる。