同氏はまず、家電下郷や「以旧換新」(都市部で家電製品や自動車を買い替える際に10%補助する制度)といった施策の中国政府の「意図」について、単に需要を喚起するというよりも、中国国内に液晶関連のビジネスを作り出すことにあると見る。

 つまり、家電下郷については、中国国内市場に在庫として溜まっているCRTテレビを農村部に普及させることによってテレビメーカーの負担を下げて液晶テレビにスイッチしやすくするようにすること、以旧換新については、CRTや古い液晶テレビから最新の液晶テレビへの代替を進めることによって、液晶テレビの普及を促進させる、という狙いがあるという。これによって、中国国内でパネルや関連部材の大きな需要を作り出し、そこからくる高い購買力を武器に、パネルメーカーや部材メーカーへの発言権を高めようとしているというのである。

 その先にある「意図」が、こうした大きな需要を背景に、中国国内にパネル工場を作ることだと中根氏は予測する。液晶パネルはさまざまな部材から構成されていてノウハウの塊であるために、そうそう簡単に中国のローカルメーカーが参入できない。そこで、日本、韓国、台湾メーカーと合弁メーカーを設立することによって、中国を液晶パネルの生産基地にしようとしている。

 実際、現時点で発表されている液晶パネルの量産計画だけで11案件に上り、このうち確度の高そうなものだけでも八つの計画が進行中である(Tech-On!関連記事3)。中国国内の内需だけなら液晶パネル工場は3~4個あれば十分だと見られているので、8個や11個の計画があるということは、全世界の液晶パネル工場に中国がなろうとしていることを意味する。実際中国政府は内需以上の供給能力になっても認可していくだろうと見られている。なお、実際に複数の液晶パネル工場が稼動するのは2012年の後半である。

 そしてさらにその先にある「意図」は、部材の国産化だろうと見る。中国は近年、In(インジウム)など自国内で産出する希少な原材料を囲い込む戦略をとっている。こうして、中国は原材料から部材、液晶パネルとワンストップに製造するシナリオを描いている。

 日本メーカーは現状では、部材に圧倒的な強みを持っており中国へはその多くを輸出している。部材はパネル以上にノウハウの塊であり、中国ローカルメーカーがそう簡単にキャッチアップできるとは思えない。ここでも中国は、日本メーカー含めた先進国メーカーに合弁事業などの協業を呼びかけてくるだろう。技術的な優位性をなんとかして保ってシェアを維持し、今後とも輸出で対応するのが理想だが、今後どのように環境が変化するかを見定めて、中国メーカーとの連携も視野に入れる必要がある。中根氏は講演の中でこう語った。

「最終的に進出しないというのも一つの選択肢だが、では、例えばコンペティターが進出したらどうするのか、中国政府が関税などの競争条件を変えたらどうか、顧客のパネルメーカーがいっせいに中国に進出したらどうするか…など幾つかの条件ごとにシナリオ作りをして欲しい。いきなり選択を迫られても決断するのは難しい。猶予はあと2~3年だと思う」

 つまり、中国は、巨大人口に支えられた旺盛な内需や広大な国土が生む豊富な資源を有効に生かして、液晶パネルや部材を輸入して組み立てるだけの労働集約型産業から資本集約型産業への飛躍を目指しているのである。