シュウカツが始まった。説明会だ,エントリーシートだと落ち着かない。昔から私も履歴書を前にすると落ち着かない。学歴,職歴,現住所。ここいらは淡々と記入すればよい。しかし,長所・短所の欄には苦悶する。何が長所だ? 何が短所だ?

 講演後に「先生,お話がお上手ですねー」と褒められることがある。褒められたのか?いやいや,口先だけだとお叱りを受けたのかもしれない。物事は単純ではない。長所,気が長い。短所,決断が遅い。長所,決断が早い。短所,短慮。長所,明るい。短所,身勝手。長所,まじめ。短所,融通が利かない。

 いやー,物は言いよう。同じことが長所にも短所にもなる。人生はオセロゲーム,白黒は目まぐるしく変わる。失敗は成功の母,成功は失敗の母。履歴書に,「長所,親しみやすい。短所,節操がない」と記入して採用してもらえるのだろうか。私が面接担当なら,よろこんで突っ込みを入れるだろう。そして,お返事が良ければ即採用である。もっとも,私のような面接官ばかりではないことが記入側の悩みだろう。

 シュウカツばかり書いていると,Tech-On!のコラムではないと怒られる。産業動向オブザーバーの立場で書くと,これは履歴書だけの問題ではない。会社の長所,短所。技術の長所,短所。どれも同じである。長所は短所。短所は長所である。

 「いやー,不景気でねー。」といわれる。いやいや,不景気だから儲かる会社はゴマントあります。「弊社は中小だから」。いやいや,中小だから判断が早い。「えっへん,うちは世界シェア1位だから」。いやいや,それは危ない。

 「21世紀は石油から水素の時代だ。石油産業は廃れる」。いやいや,石油業界はとっくに変身を進めている。一つは水素産業への転換である。もう一つは,石化産業への転換である。時代は金属から樹脂に移っている。軽い車には鉄より軽い樹脂。ガラスからポリカーボネート。「原油は燃やすな,原料にしろ」である。それなら,ガラス産業はどうするのか? プレス産業はどうするのか? 生き残る会社は考えている。いやー,オブザーバーも毎日忙しい。

 このオブザーバーが怪しい。時代はITだとか,時代は電気だとか,時代は環境だとか叫んで糊口を凌いでいる。これらは正しいが,表向きである。当然,全てに逆の流れがある。表があれば,裏もある。表と裏を知った上での判断がプロの仕事。話を戻せば,そのプロの登竜門の段階で長所と短所を履歴書で問われる。これは何? 竜になる適性試験? 竜を排除するための関門? それとも,人事の不勉強? ただの惰性? 

 新しい発想は順々な人からは出ない。天邪鬼が必要である。できれば,社会生活ができる天邪鬼が欲しい。これが会社の本音。厳しい時代,変化の時代。天邪鬼になって見直そう。私の長所短所,貴方の長所短所,弊社の長所短所,御社の長所短所。あー,へ理屈でよい。イノベーションが欲しい。