本来の業務内容からすれば当然のことですが、国土交通省は研究開発をマネージメントするためのノウハウやネットワークを十分に備えているわけではありません。他の省庁にはあるのでしょうが、やはり省庁の壁があって、なかなかそれを活用することは難しいようです。こうした枠組みそのものを見直す必要があるでしょう。

ビジネス・エコシステムという考え方

 ただ、そこを直せば見違えるようによくなるとは、ちょっと思えません。新竹のように、ビジネスのダイナミズムがそこに持ち込まれない限り、サイエンスパークはあくまで研究拠点で、イノベーションの核にはなり得ないと思うのです。つまり、サイエンスパークが、そこに企業が引き寄せられるように集まってくるような場になることです。

 なぜ、現状がそのようにはなっていないのでしょうか。その答えのヒントは、「ビジネス・エコシステム」という考え方の中にあると思うのです。「ビジネス・エコシステム」は、生態系としてビジネスを捉える方法論で、1993年に戦略論の専門家であるJames Moore氏が論文『Predators and Prey: A New Ecology of Competition』で紹介したもの。この論文は、ベスト・アーティクル・オブ・ザ・イヤーとしてマッキンゼー賞を受賞しています。

 本来、エコシステムは生物学における生態系を意味する単語です。それが、近年ではビジネスにおける特定の業界全体の収益構造を意味する単語として用いられるようになってきました。一企業の収益構造は「ビジネスモデル」と呼ばれますが、最近は企業単体ではなく、その企業をとりまく業界全体を視野に、生物の生態系になぞらえて「ビジネス・エコシステム」を考えようとの風潮が強まってきました。そこにかかわる複数の企業が協調的に活動し、全体として収益構造を維持発展させていこうとの考え方です。

 ビジネス・エコシステムにおいては、企業は新しいイノベーションを中心に共に能力を開発していくと考えます。互いに協力し競争しながら新製品を開発し、顧客の欲求を満たし、最終的には次のイノベーションにつなげるのです。すなわちビジネス・エコシステムとは、ベンダー企業や消費者が形成する 1つの経済共同体であり、個々の企業が単独ではなし得ない革新的で価値が高い製品やサービスを提供することができます。この概念を導入することで、都市や地域の産業の在り方を再定義するともいわれる、「旬な」概念です。