その中でも、最大規模といえるのが筑波研究学園都市でしょう。筑波には約300もの研究機関と企業があり約1万3000人の研究者が勤務、うち博士号取得者が約5600人もいるのです。
これだけの資産をイノベーションにつなげられなければ、わが国の産業と経済を活性化させることはできないでしょう。関西文化学術研究都市についても、まったく同じです。けれども残念ながら、これら「学園都市で続々とイノベーションが発生している」という状況からは程遠いように思えるのです。
なぜうまく機能しないのでしょうか。それを探るために、まずは活況を呈している新竹サイエンスパークの状況を整理してみました。すると、以下の三つのような際立った特徴が浮かび上がってきました
(1)人材の流入と輩出
新竹には、交通大学や清華大学などから若い人がどんどんやって来るようです。そのほとんどはエンジニアといいます。何より驚くのはその若さ。サイエンスパークで働く人たちの平均年齢は32歳とか。若いエンジニアがどんどん入ってくるのですが、40歳くらいでみな辞めていくのだそうです。
(2)公的支援の充実
「利益が出てから5年間」は免税です。日本でも沖縄名護の特区では似たような免税制度がありますが、その期限は確か設立時点からカウントしていました。ところが新竹では、会社を設立してからではなく、利益が出始めて5年間は税金を支払わなくていいのです。投資が加速するはすです。そのほか、研究費支援、政府出資、低利融資などの公的支援があります。
(3)工場の存在
かなり印象的だったのは、研究所と工場が一体化していることです。研究所があれば、必ずといっていいほど近くに、そこに関連する製造の「現場」があるのです。研究所といっても、実施されている研究のほとんどは応用研究で、その研究成果をそのまま工場に持ち込み、即座に製品にするのだと聞きました。
これらの特徴は、どれも日本ではなかなかみられないことです。ひょっとしらたこれらが「研究は盛んだが、なかなかイノベーションやビジネスにむすびつかない」という問題の要因となっているのかもしれません。
ほかにも、以前から問題と指摘されていることがあります。「研究学園都市」の根拠法である「筑波研究学園都市建設法」が国土交通省の所管であることです。このことはたびたび新聞などでも指摘されてきましたが、国土交通省は都市開発などのハードを充実させることにかけてはプロですが、必ずしも研究を効率的に進めることが得意ではないということです。